多種多様な理系社会人のインタビューを通じて、やりがいと誇りを持てる働き方を探る「理系のキャリア図鑑」シリーズ。
今回ご紹介するのは、東京ディズニーランドと東京ディズニーシーを運営する株式会社オリエンタルランドでエンジニアとして活躍する永田さんです。世界中の人々を魅了するアトラクション施設に関わる働き方とはどのようなものなのか。夢の国を支えるお仕事についてお話を伺いました!
夢の国の安全を守る
──まずオリエンタルランドと永田さんが所属するアトラクション技術部について教えていただけますか?
株式会社オリエンタルランドは、東京ディズニーランドと東京ディズニーシーを運営する会社です。当社には技術本部があり、安全品質管理室、技術管理部、設計建設部、建築物・施設関連のファシリティ技術部、空調・電気設備関連の設備部と私が所属するアトラクション技術部で構成されています。アトラクション技術部では、主にパーク内のアトラクション施設の乗り物やショーに関わる設備機器等を取り扱っています。
──アトラクション技術部では具体的にどんなことをしているのですか?
担当領域は、ライドと呼んでいるアトラクションの乗り物に関する「ライド技術」とショーの一部となるアニメーション(ロボット)や映像・音響・照明設備に関する「ショー技術」に分けられます。私は「ライド技術」に携わり、動きの激しいスリルライド系のアトラクションを中心に担当しています。
業務の重要責務として、保守点検があります。例えば、ジェットコースターのライドは走るたび車輪の表面が摩耗するため、基準値以下になると車輪を交換し、車輪の油が不足していたら給油します。その他にも、レールの亀裂の有無やライドのシートの劣化、制御盤やセンサーの異常有無など、施設ごとにたくさんのチェック項目があり、それらを一つずつ問題がないか確認が必要です。アトラクション技術部では、これらの点検を正しい周期に適切な方法で実行することで、施設の安定稼働を目指しています。
──施設内にはたくさんのアトラクションがあるので、なかなか大変そうです。
アトラクション技術部には100人以上の技術スタッフが在籍しています。その中で、保守点検やイレギュラー対応など現場対応を最優先で行うチーム、機器更新や機能改善などの計画業務を主に行うチーム、機械加工や重要保全機器を扱うチームと役割分担しています。
私が担当する保守点検も、実際の点検作業は、協力会社の方にも大勢入っていただいており、私たちは主に、点検業務の実施計画の立案と進捗管理、受入検査やイレギュラー対応にあたります。いつ来ても安全で質の高いアトラクションを楽しんでいただけるよう、みんなで力を合わせているのです。
──保守点検業務以外には、どんなお仕事をされているのですか?
主に、予防保全として不具合をなくすための改善策を考えたり、アトラクションの運営をより安全に行うための機能改善や、点検用の足場や柵の設置を含む安全対策を立案したりしています。
もちろん、パークの運営時間中に、施設に不具合が発生した場合には、点検とその原因調査にあたります。実際に現物を確認することで不具合の原因を把握し、機器の劣化が原因であれば交換周期や点検周期を見直したり、構造やシステム仕様に原因があれば材質変更や製品の見直し、ソフトウェアロジックによる改善など、対策を提案します。
──ちなみにこの仕事ならではという業務はありますか?
新規施設の開発やリニューアルが予定されている場合には、メーカーや海外のディズニー社と協力して、技術的な検討を行います。海外ディズニーテーマパークのエンジニアと関わるのは、この仕事ならではないでしょうか?私自身も、技術交流としてフロリダのエンジニアたちと一緒に仕事をする機会がありました。
ご褒美は、自分の担当する施設でゲストが喜んでいる姿
──お仕事にはどんな面白さがありますか?
いつ来ても安全で品質の高い「アトラクション」を提供するため、施設を止めずに運営を継続させていくことが一番のミッションです。安定稼働させ続けるためには、施設の機械的構造・システム構成・構成部品の仕組み等を十分に理解しなければなりません。
ディズニーでは独自技術も多く使われています。そういった技術に現場で触れ、モノの構造や仕組みを理解すること自体もそうですし、得た技術ノウハウを活用して機能を向上させたり、不具合に対する改善策を考えたりすることにも面白さを感じます。また、機械や部品は必ずいつか寿命が訪れます。機器更新の際はこれまでと同じものに置き換えるだけでなく、より良い構造やシステムはないかを検討します。日ごろの経験を生かせる部分です。モノに触れながら、理解を深める、と言うのが自分にとても合っていると感じますね。
──機器更新や新しい部品選定は永田さんご自身が決めていらっしゃるんですか?
最終的には上長の承認を得ますが、検討案の立案・計画は私やメンバーが担当しています。私は電気担当なのでインバーターやモータ、制御盤の更新などを経験しました。大規模なプロジェクトについては自社だけでなく、メーカーの方と協力しながら進めています。
──ゲストと直接の触れ合いがある仕事ではありませんが、ライドの安定稼働という面から楽しさを支えているのですね!
そうですね、過去に自分がソフトウェアの改善などいろんな経験をしてきた思い入れのあるアトラクションで、ゲストが乗って、楽しんでいただいている姿を見ると、仕事に対する充実感とやりがいを感じます。
──ディズニーリゾートはホスピタリティの高さが群を抜いていますが、永田さんご自身がお仕事をする中で大切にされていることは何でしょうか?
会社全体でお客様にいかに楽しんでいただくかを一番に考えていますので、技術本部も例外ではありません。例えば、ライドの装飾関係や見栄えなど、いつゲストが見ても楽しんでもらえるような施設を提供しようという意識を持っています。そのためには自分がゲストだった場合をいかにイメージできるかが大事です。ライドに異常がないかどうか確認するために、私たちが実際に試乗する場合がありますが、その際には、チェック箇所だけでなく、装飾品に劣化がないかどうか、アニメーションが違和感ある動きをしていないかどうかなど、ちょっとしたことでも見逃さないよう敏感でいようと心掛けています。
魔法のような技術や仕組みを理解したい
──いろんな企業がある中で、永田さんはどうしてオリエンタルランドに入社されたのですか?
実は就活開始時は、オリエンタルランドで働くという意識はありませんでした。そもそも技術の仕事があることも知りませんでしたから。きっかけは就活時にいろんな会社を見る中で説明会で話を聞き、面白そうだなと思ったんです。
──どこに興味を惹かれたのでしょう?
ディズニーにしかない技術や施設ですね。それが、すごく面白そうだなと。小学生や大学生のころに東京ディズニーランドや東京ディズニーシーで何度か遊んだことがあり、例えば、タワー・オブ・テラーでライドに乗る前に入る部屋があるんですが、そこにある石像を一瞬にして消してしまうんです。その技術や仕組みに対して、どうなっているのか考えたりと、好奇心がすごく湧いたんです。こういった技術に関わりたいと思い入社を志望しました。
──他の企業は受けなかったんですか?
電機メーカーやIT企業など、分野を絞らずに選択肢を広げて就活をしていました。最終的にはディズニーの独自技術に関わりたいという思いがあったのと、ゲストが楽しみに遊びに来て、自分たちがそのための施設を提供する、という分かりやすい形でやりがいをイメージできたことが大きかったです。オンリーワンの施設と技術をもった現場でしか学べないことがあると思いました。選考を進める中で人事の方々の人柄が温かかったというのもあります。
──オリエンタルランドへ就職するとなったとき、周囲の反応はいかがでしたか?
友人には受けている人はいなかったので、「へぇー、そんな仕事もあるんだね」という感じでしたね。ちなみに、オリエンタルランドの技術本部に私の大学から就職したのは初めてだったそうです。
──永田さんは学生時代に何を学ばれていたんですか?
制御工学を中心に学んでいました。
──学んだことは生きていますか?
生かせている知識は多いと思います。研究の中でソフトウェアを読み書きしたり、モータやセンサー等の制御機器を勉強したりなどしていましたから。一緒に働くメンバーは機械系、電気電子系、情報系出身が多い印象です。知識は事前にあると役立ちますが、基本的には入社後に学ぶことがほとんどです。機器更新にしても、正しい知識がなければ置き換えた物が正しく動作するかどうか判別できません。更新業務が発生するたび、製品カタログを調べたり、昔の学部時代の知識を引っ張り出してきてどういう原理で動くのだろうと勉強し直したり、それでも分からなければ先輩や取引先の担当者に質問して、知識を日々更新していきます。学生時代の勉強は、エンジニアの基礎や土台をつくるものです。自分はたまたま制御工学でしたが、それ以外でも幅広く勉強をしておくことが大事ですね。
就活生へのメッセージ
悔いが残らない就活をするためには、視野を広げた方がいいのかなと個人的に思います。入社したい企業が決まっていたとしても、いったん視野を広げていろんな企業を知っていくと、さらにその企業で働くことの良さが分かるはずです。もしかしたら、新しい出会いも見つかるかもしれません。自分も、もともと考えていなかった企業で働いています。コロナ禍で大変だと思いますが、可能な限り行動をして、いろんな選択肢を知った上で、自分がどこに合うのを考えた方がいいのではないでしょうか。
またオリエンタルランドを就職先として見たときに特徴的なのは、現場からの近さです。技術的な検討もしますが、現場で実際に作業をすることも多いですし、現場でしか学べない知識・技術がたくさん身に付きます。現場仕事、そして独自技術に興味がある方には魅力的な職場だと思います。
〈編集部より〉
世界的にも有名な東京ディズニーランドや東京ディズニーシーで、私たちゲストが思い切り楽しむことができるのは、今日ご紹介した永田さんをはじめ、エンジニアの方々のおかげなんだなと改めて気づかされました。自分が関わった施設でお客さんが喜んでいる姿を直接見ることができるというのも、この仕事ならでは。やりがいを身近に感じる仕事がしたいという方は、テーマパークをはじめとしたエンターテインメント業界を選択肢の一つに入れてみてはいかがでしょうか。
株式会社オリエンタルランドは、千葉県浦安沖の海面を埋め立て、商業地・住宅地の開発と大規模レジャー施設の建設を行い、国民の文化・厚生・福祉に寄与することを目的に設立された、東京ディズニーランドおよび東京ディズニーシーを中心とする東京ディズニーリゾートを運営する会社。2019年度は、2つのテーマパーク合計で来場者は年間3,000万人を超えた。
http://www.olc.co.jp/ja/index.html
(本記事は「リケラボ」掲載分を編集し転載したものです。オリジナル記事はこちら)
研究職をはじめとする理系人の生き方・働き方のヒントとなる情報を発信しています。
理想的な働き方を考えるためのエッセンスがいっぱいつまったリケラボで、人・仕事・生き方を一緒に考え、自分の理想の働き方を実現しませんか?
https://www.rikelab.jp/