今回は世界最大のPCメーカーレノボの日本法人、レノボ・ジャパンでソフトウェアエンジニアとして活躍されている有馬志保さん(中途入社・2年目)にご登場いただきました!
グローバル企業のレノボが提供するPCは、世界シェアNO.1 。PC利用者の5人に1人が使っていると言われています。特に日本で開発しているThinkPadシリーズは同社を代表する人気モデル。そんな世界的製品の最先端に携わる仕事には、どんな人たちが関わり、どのように進められているのでしょうか?
また、有馬さんにとってレノボ・ジャパンは2社目の会社。日本企業と外資系企業の両方を経験してみて感じたことも教えていただきました。エンジニアに興味はあるけど迷っている方、特に女性の方に是非読んでいただきたい、前向きな気持ちになれるお話です!
5人に1人が困る!?パソコンを制御するファームウェアを守る仕事
——有馬さんは、レノボでどんなお仕事をされているのでしょうか。
レノボといえばノートパソコンのThinkPadをイメージする人が多いと思います。パソコンのものづくりには電子回路や部品といったハードウェアの開発と、内部を制御するソフトウェアの開発があります。私はソフトウェアエンジニアとして、ThinkPadの開発に携わっています。
ソフトウェアといってもいわゆるアプリケーションソフトではなく、ファームウェアといって、ハードウェアをコントロールするBIOS(Basic Input Output System)と呼ばれるものがあります。私はこのBIOSのセキュリティの開発からプログラミング、実装に携わっています。
——ファームウェア、BIOSについて詳しく教えてください!
BIOSはパソコンの電源を入れたときに最初に起動するプログラムです。キーボードやマウス、パソコンの頭脳部分であるCPUなどの管理や制御を行います。PC内(マザーボード)にあらかじめ固定(Firm)されているソフトなのでファームウェアと呼ばれます。
——そのセキュリティ部分の開発とは、どういうものですか?
パソコンのマザーボードには、チップセットという大規模な集積回路を集約したチップがあり、このモジュールにファームウェアの各種セキュリティ機能が搭載されています。たとえば、パスワード保護、ThinkPadの指紋認証機能、メモリのセキュリティ機能といった、パソコンの安全を守るためのさまざまな機能です。
私たちファームウェアのセキュリティ部隊は、そうした機能の開発や、機能を安全に利用するための細工や調査、検証といったことに携わっています。近年はファームウェアを狙ったサイバー攻撃も増えていますので、製品開発においての重要な要素の一つになっています。
——パソコンの安全を守るとても重要な部分を担当されているのですね!
レノボのシェアは世界ナンバー1であり、大げさにいえば、私たちの仕事が滞ると世界のユーザーの5人に1人が困ることにもなりえます。とても責任が大きいですが、私たちの仕事が大勢の人にパソコンを使う上での安心をお届けしていると思うと、とてもやりがいを感じます!
——実際の開発はどのように行われるのですか?
私はファームウェアを保護するための署名システム構築を担当しています。新製品毎にファームウェアの仕様に応じてシステムに新機能を追加したり修正したりする必要があるので、必要に応じて各機能の担当者とのディスカッションを重ねます。現状のシステムにどう組み込むかについて、システムに手を加える前に必ず、セキュリティのリスクの観点でチーム内レビューを行います。
社内では、こうした新機能を追加するときにはレビューを受けることになっており、レビューではセキュリティリスクやユーザインパクト等についての指摘がされます。また当社では1機能を1人で担当することが多いです。
——1機能を最初から最後まで手掛けられるのはいいですね。でも1人担当で、困ることはないのですか?
もちろん困ることも出てきますが、周囲の方がフォローしてくださります。問題が起こるとすぐにチーム内でレビューを行い、助け合っています。課題が見つかったり、外部から指摘が寄せられたりすると、「自分たちで解決しよう!」とみんなで夢中になって取り組むような人たちばかりなんです。チームリーダーをはじめ若くて実力のある人が多く、触発される形で「自分ももっと力をつけよう!」とやる気が刺激されるのが楽しいです。
問題解決ができると最高の気分! 学生時代も今も変わらない気持ち
——有馬さんがソフトウェアエンジニアになられた経緯やその魅力を教えてください。
親類をはじめ周囲に理系の人が多かったので、自然とあこがれを持ち、理系を志望しました。いろんな選択肢があった中、手に職をつけたくて大学で情報工学を学んだところ、ソフトウェアの面白さに目覚めました。学会に出ることや賞への応募など、いろんな目標を持っていたので修士まで進み、研究だけではなく英語力を鍛えることにも力を入れました。でもとにかく研究が楽しくて、有意義な学生時代を過ごしたと思います。
——情報工学のどの点が特に楽しかったのでしょう?
“問題を解決するプロセス”です。例えばソフトウェアを実装した際、意図しない問題が発生する場合があります。その問題解決のために調査し修正して、問題が解決したのを確認する。そのプロセスが、私にとっては何より面白かったです。この面白さはエンジニアの仕事でも変わりません。開発過程では必ず問題が起こりますが、それをいかに早く正確に解決するかに挑みます。解決できた際には達成感でいっぱいになりますし、その快感を味わってしまうとやめられなくなりますね。
——もともとエンジニア志望だったのですか。
実は、就職活動時、ソフトウェアがやりたいということだけははっきりしていたのですが、研究と開発、自分がどちらに向いているかわかりませんでした。なので、どちらも受けて縁のあったほうへ行こうと。そして入ったのが前職、1社目の会社です。エンジニアとしての入社でした。そこは自社内でほとんどの開発を行っていて、エンドユーザー向けのGUI(Graphical User Interface)に力を入れている会社でした。デザインから実装まで一貫して担当させてもらえて、5年ほどで次のステップへ進もうと転職を決意しました。希望はソフトウェアエンジニアとしての幅を広げること。ものづくりのもっと上流、回路に近いような部分を制御するソフトウェアを手掛けてみたくて、BIOSに関われる魅力があったレノボ・ジャパンに入りました。
——入ってみていかがでしたか?
初めての経験が多く、覚えることがたくさんありました。たとえばインテルのチップセットはマザーボードに組み込まれていますから、円滑に仕事を進めるためにはハードウェアの知識が必要になります。私はソフトウェアを専門にしてきた分、ハードウェアについては勉強しながら取り組んでいます。セキュリティ機能は日進月歩で、新しいルールがどんどん出てくる世界なので、トレンドに気を配るなど、広い視野が必要ですね。
——外資系ということで語学力も必要ですか?
英語は必要です。レノボのレビューは日本人同士でも英語ですし、社外の方とも海外のテスト拠点とも英語でやりとりや質問会を行います。英語でのコミュニケーションができないと必要な情報が手に入らず、仕事が進みません。学生時代、英語のリーディングとライティングは頑張ったほうなのですが、実際の会話は苦手だったためレノボ入社時には結構苦労しました。
今も日々勉強です。特にヒアリングとスピーキングのスキルが大切だと思いました。メールや資料の文字情報だけではやはり限界があります。少し前までは、エンジニアは技術力があれば英語は多少苦手でも何とかなるというような考え方もあったかもしれませんが、英語、特に会話によるコミュニケーションが苦手ではないほうが円滑に仕事を進めることができると思います。
レノボの環境やプログラムが、自分の歩むべき道を照らしてくれた
——外資系と日本の会社両方経験してみて、違いはありましたか?
レノボ・ジャパンに来て、若いうちから責任ある仕事を任せてもらい、働く上でのモチベーションが上がりました。前職も充実していましたし、いい環境でしたが、古くからの伝統があることもあって、先輩や上司がいつも守ってくれている感じがありました。今の会社では若くても一人前として扱われて、自立することが求められていますが、必要な時にはサポートは得られるので、私にはこちらのほうが合っていると感じます。多様性が尊重されていて、ジェンダーフリーな風土なのもレノボの特徴だと思います。
——ご自身の仕事に対するスタンスに変化はありましたか?
「枠を超える」ことが大事だと感じています。会社に依存するのではなく、会社に役立つ人間になろうという気持ちが強くなりました。“レノボの有馬”ではなく、会社の枠を超えて有馬という個人の力をどれだけ高められるか、という感じでしょうか。そういう視点で成長していく人材が求められていると思います。一緒に働く仲間たちは自分で作ったツールを共有するなど、自分の仕事だけでなく、周囲にプラスになる行動を取る人が多いです。そうした環境に刺激を受けて、次第に私も「役に立とう」「指示されたことにプラスαを加えた提案をしよう」とどんどん率先した動きをしていくようになりました。以前よりも貪欲なチャレンジ精神が湧き上がってきていますし、視野が広くなってフットワークも軽くなりました。
——レノボに入って新たにチャレンジされたことはありますか?
IT業界のジェンダーギャップ解消に向けた活動をしています。女子学生対象の世界的なアプリコンペに挑戦する学生のメンターや、女性向けプログラミング教育を提供する団体のボランティア活動などです。この団体は女子中高生へIT・STEM教育の機会を提供していて、レノボも活動をサポートしています。
——本業もボランティア活動も積極的で素敵ですね!
レノボが背中を押してくれたことが大きいです。
私はこれまで、本業以外の活動は、知識を蓄えて実力がついてからでいいと思っていました。ですが、レノボに来て、今やることに意味があると気付かされました。レノボには「Will シャドーウィングプログラム」という女性向けのキャリアアッププログラムがあります(※2021年10月現在は男性も参加可能になっています)。エグゼクティブの側に付いてその仕事を間近で体感するジョブシャドーイングや1on1のキャリア相談を受けられるのですが、メンターであるCOOの方に、「仕事以外の活動もゆくゆくはやってみたいと思っている」と話したところ、「なぜ今やらないのか?」と問われて、ハッとしました。時間や知識のなさを言い訳にして、やっていないだけじゃないかと。そこで、動かなくちゃ!と感じて。
——COOから直接アドバイスを受けられるなんて、やる気が出ますね!
やってみて本当によかったと感じています。仕事だけでなく、ボランティア活動もエンジニアとして成長していくうえでとても有益だと実感しています。世界的なコンペに一緒に挑戦することで、最新の技術についてのキャッチアップもできますし、また、若い感性と触れ合い、今の学生がどんなことを考えているのかを知ることで、いずれ迎える後輩とよい関係を築いて仕事を進めるうえでの心構えもできました。
——今後の目標を教えてください。
まず仕事では、BIOSについてもっと知識とスキルを身につけたいです。社外のボランティア活動も今後も続けていきます。日本では女性が生涯働き続けるという概念が薄く、高い学歴を手にしても、仕事に生きがいを持たなくてもいいと考える人も少なくないのですが、IT業界、特に外資系は女性が働きやすいですし、面白くてやりがいのある仕事なので、そういったことをもっともっと伝えていきたいです。
就活生へのメッセージ
——最後に、エンジニアに興味を持っている学生に向けてメッセージをお願いします。
ソフトウェアエンジニアは理系に適性があるイメージかもしれませんが、実はソフトウェアの分野は幅広いので、文系理系は関係なく活躍できる職種だと思っています。論理的に物事を考え、説明するスキルをつけておくといいと思います。このスキルはプログラミングにも必要ですがそれよりも、よい製品を作るためのディスカッションをするうえで非常に大事になってくる能力です。
それと学生時代は、何でもいいのでとにかくいろんなものに触れて、「これが好き」「これが自分らしさ」「これに関しては得意だ」と言えるものを見つけてください。エンジニアの世界は常に学び続ける必要があり、日々力不足を感じるという厳しい側面もあるので、得意な分野を持つことが自信につながります。そして、やりがいをもってはたらくためにも、ぜひ、学生のうちに自分のライフプランを考える機会を持って欲しいです。
エンジニアの仕事はものづくりの喜びを実感できる素敵な仕事です。ぜひ、一緒にIT業界を盛り上げていきましょう!
〈編集部より〉
デジタル社会においてなくてはならないエンジニアの仕事。求人も豊富で、最新技術を勉強していく意欲がある人にとって、長く安定して活躍できる職種です。男性の仕事というイメージが強いかもしれませんが、有馬さんやレノボ社の取り組みをうかがっていると、積極的に女性にも門戸が開かれ、はたらきやすくやりがいの持てる業界になってきていることを実感します。
技術を身に着けることは、より自由に自分らしい人生を送るうえで大きな助けになりますね。
有馬さん、レノボ・ジャパンの皆様、素晴らしい取り組みをシェアしてくださりありがとうございました。
(本記事は「リケラボ」掲載分を編集し転載したものです。オリジナル記事はこちら)
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