イラスト:桜井葉子
スイーツ星人との戦いは、スイーツほどに甘くない! 街の平和を守るため、今日も科学戦士は立ち上がる!
社長からのプレゼント……のはずだった
私は、ミギネジ。
昼はエンジニアとして働き、夜は誰に言われるでもなく科学戦士をやっている。
「ふんわり~♪ ふんわり~♪ ふんわり綿菓子っ! 新発売^^」
ミギネジは、「ふんわりダンス」がCMで話題の綿菓子と闘っていた。
「何よ、ふんわりダンスって!」と口では突っ込みつつも、
「ふんわり~♪ ふんわり~♪」のメロディが頭から離れないのである。
そして、結局こうなる。
「買ってしまった……!」
ミギネジは、購入したふんわり綿菓子を光波ナミとシェアして食べていた。
「ミギネジ、おいしいね~! 特にこの綿菓子の中に含まれる『空気』が」
「わかるっ! このふんわり感は、綿菓子の中の『空気』があってこそだよね~」
前回の「イヤリングでできる水分子」といい、「綿菓子の中の空気」といい、心躍るポイントが同じ2人はいつしか親友になっていた。
「あ、そうそう! 社長が『キレイな虹を見せてくれたお礼にミギネジにこれを』だって」
ミギネジは以前、光波ナミがボディガードを務める社長に虹実験を披露し、喜んでもらっていた。
「綿菓子の工場見学に行ける券よ。でも、工場で『ふんわりダンス』を踊らされるみたい。まさか行かないだろうなと思っているんだけど……」
「……行くわ!」
あいにく綿菓子を口にした頃には、すでに踊り出したくなっていた。
ふんわり星人、綿菓子工場で大暴れ
しかし……、楽しみな時間も束の間。
突如ふんわり綿菓子のメーカーから「緊急事態のため、工場見学は中止とさせてください」と連絡が来た。
「せっかく『ふんわりダンス』を練習してきたのにーっ!」
ミギネジは誰にも見られないように家のカーテンを閉めて、密かに「ふんわりダンス」の練習に励んでいたのだ。
「これでは、私の努力が報われないわ!」
ミギネジは光波ナミに事情を赤裸々に伝えて同情を誘い、いったい工場で何があったのかを探りに向かってみることにした。
綿菓子工場の忍び込んだ科学戦士ミギネジと光波ナミは、たくさんのボタンや画面がある監視ルームにたどり着いた。
「セキュリティ、ゆるくない?」
果たして、嫌な予感は的中してしまった……!
監視役の人たちはすでに何者かにやられて倒れており、簡単に忍び込めたのである。
恐る恐る監視ルームの画面を覗いてみると、白くてふんわりしている「ふんわり星人」が従業員を次々に襲っている。
「この工場で白くてふんわりと言えば、綿菓子だろうけれど……」
ミギネジには気になる点があった。
従業員がいくらパンチを繰り出しても、ゆっくり元に戻るようなのである。
「綿菓子だとこんなに戻らないよな……。しかも、円柱の塊だし……」
ミギネジは、ふと気づいた。
「ということは……。きっとヤツの正体はゼラチンを取り込むことで弾力を持った……、マシュマロ!!!!!」
ふんわり星人、ミギネジたちに襲い掛かる
「はっはっはー! 君たちがいけないのだ。いくら綿菓子が売れたからって、もともとこの会社の目玉として頑張ってきた我々マシュマロを見捨てるなんて!」
「いや、でも近年本当に売り上げが……」
「うるさ~い! マシュマロダンスもつくるのだーーー! パーンチ!」
従業員とふんわり星人のやりとりを聞く限り、事の発端は、綿菓子の推され具合に対するマシュマロの嫉妬であることは容易に想像できた。
監視ルームの画面からさまざまな事情を知ってしまったミギネジと光波ナミ。
「おやおや、いろいろ余計なことを知ってしまったら、逃がすわけにはいかないな~」
ついに、ふんわり星人に見つかってしまった!
このままだと逃げられないので、敵の気をそらすために、監視ルームのボタンを手あたり次第押してみた。
すると、なんと!
「ふんわり~♪ ふんわり~♪ ふんわり綿菓子っ! 新発売^^」
というおなじみのメロディが、工場内全体に大音量で流れ出してしまったのである。
押したボタンは、ミギネジが工場見学で踊るときに使うはずのものだったようである。
「お前たちも綿菓子派だったのかあああああ!」
マシュマロが叫んでいた。
絶体絶命のピンチの中で押した「あるボタン」
「終わったわ……」
工場内には綿菓子のメロディ。目の前にはマシュマロ。
なんならミギネジは、「ふんわりダンス」の振り付けも超完璧だし、綿菓子派の回し者だと思われても仕方がない。
「このままだと、やられる!」
ミギネジは、光波ナミに「あるボタン」を合図で押すように伝え、監視ルームから走って逃げ出した。
ミギネジは追いかけてくるふんわり星人を、ある部屋に閉じ込めた。
そして、監視カメラに向かってミギネジはGOサインを出し、その合図を監視ルームで見た光波ナミが「あるボタン」を押した。
“ポチッ”
ボタンを押すと、ふんわり星人がどんどん膨らんでいく……!
そう、光波ナミが押したのは、部屋を真空状態にするボタン。
綿菓子と同じようにマシュマロの中には空気が含まれているため、外側の空気を抜いていくと、中の空気の力のほうが大きくなってどんどん膨らむのだ。
「はっはっはー! 何のボタンを押したが知らないが、我々はどんどん大きくなって強くなっているぞ。科学戦士だか何だか知らないが、こんな状況にも耐えられる我々をナメるでない!」
空気が少ない状態なので敵の声はあまり聞こえないが、科学戦士を挑発したことはよくわかった。
「まあ聞こえてないですけども、ごちゃごちゃ言うのもそこまでにしておきなさい!行け~、空気!」
光波ナミは、ミギネジの合図をもと、また「あるボタン」を押した。
“ポチッ”
“プシューッ!”
ボタンを押すと、部屋に空気が戻された。
真空に近い状態からまた空気を入れると、今度はマシュマロがどんどん小さくなって、最終的にはシワシワの塊になった。
膨らんだときにマシュマロの中のいくつかの気泡が破裂し、外側の空気の気圧が戻ったときに破裂した分だけマシュマロは小さくなるのだ。
「ふんわり感がああああああああ!」
ふんわり星人は己の追求してきたふんわり感がなくなったショックで立ち直れず、そのまま退散した。
ついに完成!? 「マシュマロダンス」
「ふんわり~♪ ふんわり~♪ ふんわりマシュマロっ! 発売中^^」
「あれ??? マシュマロダンスのCMができているー!」
ミギネジは、わが耳と目を疑った。
その横では「僕はマシュマロ派です!」と言いながら、博夫が踊っている。
「ところで、なんで急にマシュマロダンスができたんだろう? 僕はうれしいですけど……。何か知っていますか? ミギネジさん」
マシュマロの大ファンを前に、「実はシワシワにしてやったわ」とは口が裂けても言えない。
皮肉にもシワシワになったマシュマロの想いは、「空気ボタン」を押した張本人である光波ナミが自社の社長を通して伝え、届けられていたのだ。
「争いは、ちょっとした立場の違いで起こるものだからね。綿菓子とマシュマロ、どっちもおいしいじゃない」
こうして、平和は守られた。
【ミギネジの予備実験室】
◆必殺技名:「マシュマロと真空」
◆分野:物理
◆費用:★★★、手間度:★★☆、危険度:★★☆
《準備するもの》
◎真空装置
◎マシュマロ
《実験手順》
真空容器のなかにマシュマロを入れます。
容器内の空気をぬいていくと、マシュマロが膨らんでいきます。容器内を真空状態に近づけることによって、周囲からマシュマロにかかる気圧が小さくためです。
マシュマロが膨らんだことを確認し空気を戻すと、マシュマロはつぶれてシワシワに小さくなります。
マシュマロの中にある膨らみ過ぎた気泡のいくつかは破裂してしまうため、周囲の気圧が戻ったときに壊れた気泡の分だけ小さくなるのです。
※今回は自動真空装置を使用しましたが、手動の真空皿などでも実験していただけます。
みなさんもぜひ、ミギネジの必殺技を試してみてください!
▼注意事項
・小学生など低年齢の子どもが実験するときは、必ず保護者の指導のもとで実施してください。
《特別ふろく!》
■「簡単真空装置」の作り方
【材料】
・シリンジ(注射器)
・吸盤
・空きビン
・ビニールテープ
・風船やマシュマロなど真空容器の中に入れたいもの
【使う道具】
・きり
・はさみ
写真1:用意するもの
【作り方】
シリンジ(注射器)のノズルのある面に、きりで穴をあけます。
※勢いよく穴をあけようとするとシリンジが割れたり、滑ってきりが手に刺さったりする可能性がありますので、注意しながらゆっくりとあけてください。
写真2:シリンジ(注射器)のノズルのある面に、きりでゆっくりと穴をあける
シリンジ(注射器)のノズルの部分の裏側から、はさみで小さく切ったビニールテープを貼ります。この時、ピストンを奥まで押し込むのを利用して貼ると貼りやすいです。
写真3:シリンジ(注射器)のノズルの部分の裏側からビニールテープを貼る
さきほどきりであけた穴に、今度は表側からはさみで小さく切ったビニールテープを貼ります。
写真4:きりであけた穴に表側からビニールテープを貼る
シリンジ(注射器)のノズルの先に、吸盤をはめ込みます。
写真5:シリンジ(注射器)のノズルの先に、吸盤をはめ込む
空きビンのふたにきりで穴をあけます。この時も滑ってきりが手に刺さったりする可能性がありますので、注意しながらゆっくりとあけてください。
写真6:空きビンのふたにきりで穴をあける
これで、簡易真空装置は完成です!
写真7:簡易真空装置の完成
【実験方法】
空きビンのなかに、真空のなかに入れてみたいものを入れます。分かりやすいように、口をしばった状態の風船を入れてみます。
写真8:口をしばった状態の風船を入れる
空きビンのふたをして、ふたのきりで穴をあけた部分に吸盤をくっつけます。吸盤がよくくっつかない場合は、ビニールテープなどで貼り付けても大丈夫です。
※空きビンのふたは、空気が漏れないようにしっかりと閉めてください。
写真9:空きビンのふた(きりで穴をあけた部分)に吸盤をくっつける
シリンジ(注射器)を引いたり押したりして、空きビンの中の空気を抜いていきます。この時、シリンジ(注射器)を引くときはシリンジ(注射器)のあけた穴をビニールテープの上から指でおさえ、シリンジ(注射器)押すときは指を離すと空気が抜けやすくなります。
写真10:シリンジ(注射器)を動かして空気を抜く
空きビンの中の空気をぬくと、風船が大きく膨らみました!先ほどのマシュマロが膨らんだのと同じ原理で、周囲から風船にかかる空気の力よりも風船の中からかかる空気の力の方が大きくなるためです。
写真11、12:空きビンの空気を抜いていくと、風船が膨らむ(左:前、右:後)
マシュマロを入れて、空気をぬいてみても同じように膨らみます。風船やマシュマロ以外にもぜひ色々なものを空きビンに入れて空気をぬき、実験してみてください!
■注意事項
・小学生など低年齢の子どもが実験を行うときは、必ず保護者の指導のもとで行ってください。
・きりやはさみを扱う際は手に刺したり、手を切ったりしないように注意して扱ってください。
・シリンジ(注射器)で空気を抜くときは力が必要になりますので、かたくて難しい場合は保護者の方がお手伝いしてください。
■参考文献
内田祐貴「実験教材としての簡易真空ポンプの研究開発と教育実践」神戸松蔭女子学院大学研究紀要 人間科学部篇、5、67(2016)
五十嵐美樹(いがらし・みき)
科学のお姉さん。1992年東京都生まれ。
東京大学大学院修士課程及び東京大学大学院科学技術インタープリター養成プログラム修了。
幼いころに虹の実験を見て感動し、科学に興味を持つ。学部在学時に「ミス理系コンテスト」でグランプリを獲得後、「老若男女問わず科学の楽しさを伝えるミス理系女子」として、子どもから大人まで幅広い層に向けた実験教室やサイエンスショーを全国各地で主催、講師を務める。
特技のヒップホップダンスで魅せる「踊るサイエンスショー」は好評を博している。