ゼンショーはすき家、ココス、ビッグボーイ、はま寿司などを全国展開しています。私はお客様に安全な料理を食べていただくため、各店舗で扱う食材の安全性を確認する仕事をしています。米や野菜、肉、加工食品に農薬や動物用医薬品などの化学物質が含まれていないか分析します。国が定めた残留基準値がありますが、弊社ではその10分の1の値まで徹底して分析しています。そうすることで、生産や加工など各工程の小さな異変やリスクにも気づくことができるのです。

食材と分析項目の組み合わせは多岐にわたるので、場合によってはうまくいかないこともあります。どうやったら適正な分析ができるか検証を重ね、その都度改善しています。学生時代は生物学専攻だったので、化学にさほど詳しくありませんでしたが、仕事をしながら勉強を進めてきました。一方、問題が起きたときにどう解決するかは、大学院までの研究で培った基本的な考え方が役立っています。

幼いころ、祖母と散歩の途中に雑草を採取して、図鑑で名前を調べていました。そのことが原体験になり、植物が好きになりました。植物の生態に興味があったので、大学では生物学を専攻。植物の品種改良に関わる研究室で、切り花として必要な多様性を持ったカーネーションをつくっていました。

種が違うナデシコとかけあわせて雑種をつくるのです。いろいろなカーネーションとナデシコの花粉を受粉させて、花を咲かせ、結果を検証します。受粉させるときはミツバチに先を越されないように時間との戦いでした。

大学院でも植物に関わり、北海道でハスカップの品種改良をテーマにした研究に取り組みました。大学で研究する中でアカデミックな成果を求めるより、ビジネスに直結する研究がしたいと思うようになりました。

大学院の研究室は地元の洋菓子店と連帯し、商品に適した品種の開発をしていたりと、ビジネス的なつながりがあるところに魅かれました。

国にも明確な基準がない「におい」の分析に取り組んでいます

その視点は就職活動でも変わりませんでしたが、趣味が料理であること、飲食店でのアルバイトで接客の仕事が好きになったことから食に関わる企業に絞り、そこでゼンショーを知りました。自社で分析機関を持っているところに食の安全性への本気度が感じられ興味を持ちました。外食チェーンで自社機関を持っているのは珍しいことですし、ビジネスに直結する研究もできそうだと感じました。

友だちとの会話やツイッターを通して「すき家で食べたよ」という声を聞くと「私が検査した食材だ!」と誇らしく思います。現在は新たな取り組みとして、においの分析の立ち上げを行っています。ほとんどのにおいには明確な国の基準がなく、人によっても感じ方が違います。においの分析は食の安全への取り組みになるだけではなく、おいしさにもつながるので大きな可能性を感じています。

【リケジョブ・オフショット】

料理やお菓子づくりが好きで友人とホームパーティーをよく開きます。実家で食べていたきざみゆで卵入りのコロッケなど、前日から6人分の料理を仕込むことも。シュークリームの皮だけ焼いておいてみんなでクリームを入れながら食べるのも楽しいです。

(『Rikejo』2016年9月号より。情報は取材時のものです)