事務局Yは、資生堂 女性研究者サイエンスグラント表彰式を取材してきました!
資生堂「女性研究者サイエンスグラント」は、優秀な女性研究者の研究活動を支援し「指導的女性研究者」を育成することを目的として創設された支援制度で、採択されると研究費などの助成を得ることができるというものです。
特に、より多くの女性研究者へという思いから、対象者の年齢・国籍を問わず、研究分野も広く「自然科学全般」としていること、さらに、出産や育児などのライフイベントの際にも研究を継続できるように、助成金を試薬や実験機器の研究費以外に「研究補助員の雇用費用」にも充てることができることが特徴となっています。
今年も、第6回目として、10名の女性研究者の方が受賞されていました。
http://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000024.000005794.html
受賞された女性研究者の方々は、科学者を目指す女子中高生にとっても素敵なロールモデルともいえます。
授賞式に当たり、基調講演及びトークセッションが開催されました。
基調講演は、第3回受賞者で今年度の猿橋賞(優秀な女性研究者に贈られる賞です)も受賞されている理化学研究所准主任研究員の肥山先生の「私の研究半生を振り返って」についてでした。
肥山先生のご専門は、原子核理論という理論物理です。女性があまり多くない分野で活躍されているのですが、独自に開発した計算式という圧倒的な武器をもって、精力的に研究活動をされています。また、理化学研究所に移られてきてからは、ラボの運営ということで、ご自身の研究活動のみならず、ラボにおける研究費の獲得、ラボメンバーや学生の指導といったことまで積極的にこなされています。
先生の講演で印象的だったのは、こうした研究活動において、大切なことは「人との出会い」であるとされていることです。先生の計算式を応用する課題を見つける、または自身の理論の正しさを検証するための実験をするといったことは、自分だけではできないことであるため、多くの他分野の専門家とコラボをする必要があります。これらの共同研究者の方々の出会いは、自信の研究興味を広げるとともに、実績を作るといった意味でも非常に大切になってくるのです。
そして、「出会う」ために、自らが敢えて他分野の専門家が集まる場に積極的に出向かれているそうです。自分の研究をプレゼンテーションするチャンス、積極的に持ちかけるチャンスを作り、参加されてきたようです。さらに、公式のプレゼンテーションの場もそうですが、例えば懇親会で、知らない方や専門外の方の横にわざと座るとかそのような工夫もされているそうです。そして、特に、自分の研究をアピールするプレゼンテーションは重要で、「おもしろい!」と思ってもらえることで共同研究へとつながります。
従って、自分がどんな方々の前でプレゼンテーションをするのか、何のためするのか、何が相手の方は興味があるのかを常に考えながらプレゼンテーションをされているそうです。研究者にとって、このプレゼンテーション能力は非常に大切であると先生は認識されており、また、ご自身も1か月もかけて念入りに準備されるなど大切に思ってらっしゃるそうです。さらに、シンポジウムを企画したり、講演依頼なども積極的に引き受けてらっしゃっており、こうしたことも自信のPRや人との出会いに繋がるとのことです。
また、現在は理化学研究所の准主任研究員としてご自身のラボを経営されていますが、こうした立場になって初めて、研究費の獲得(特に先生のポジションは競争的資金で賄うようにというものであったため)や、優秀なスタッフや学生さんの獲得に指導といったことが重要であり、責任をもって取り組まねばと実感されたそうです。ポストを得ることで鍛えられ、成長させられるとのことですので、リケジョの皆さんも臆さずにこのような管理職の立場になることを目指すべきといえます。
もちろん自身ももっと研究をしたいというお気持ちもありますが、今は、むしろそれを抑えて、スタッフや学生さんの指導に注力することで、彼らの実績をつくることは先生自身の実績にもなるわけで、自分の手は動かせないが、やりたいことをスタッフと一緒にやっていくというスタンスに切り替えらえたそうです。今後は、もっと他分野での計算式の応用にも取り組みたい、そして、スタッフや学生の指導にも注力しラボを発展させていきたいと思ってらっしゃいます。
続いては、肥山先生、東京電機大学の保倉先生、資生堂のサイエンスコミュニケーターの蓑田さんによるディスカッションタイムとなりました。
テーマは「指導的研究者になるには? 日本の化学界を推進するには?」です。
女性研究者の問題としては、ワーク&ライフのバランス等が挙げられますが、もちろんそれも大事な問題ですが、サイエンスグランド受賞の先生方はさらに一歩進んで、指導的研究者になり、かつ自分の研究分野をけん引するにはどうすればよいかということを考えるステージにいらっしゃる方ばかりです。
そうした視点で議論をされること自体、かなり私にとってはとても新鮮でした。また、昨今、安倍政権の下、女性の活躍により日本経済を盛り上げるため、女性管理職などの積極的に登用すべきという流れがありますが、産業界のみならず、アカデミックの分野においても、女性研究者の方々が、指導的研究者(責任研究者)を目指していく力強い流れがあることに大変感銘を受けました。
肥山先生いわく、指導的研究者になりたくてなっている人は実は少ないと思うが、自分が好きな研究を続けて結果を出し続けた結果、または自分の専門分野を盛り立てようと努力した結果でそのポストが巡ってきてステップアップできて、そのポストに就くことで、自覚や責任を全うしようという意識でてくるものだそうです。
保倉先生も、ドクターをとってからポスドグが続いて、いつまで続く恐怖感はあったそうですが、その時にいる環境でベストを尽くしたことが今に至るそうです。現在は、研究と教育のバランスにお悩みになることもあるそうですが、学生のことも考え研究室経営に尽力されているようです。また、自分の実験の時には色々悩むことはなかったが、人に実験を与える時には自分の意志ではどうにもならないところもあって、学生さんのモチベーションを上げることに苦心されているようです。
また、一般的に、こうしたグラントを受賞することが、大学でのポストを得る一つのステップの一つになったり、また、受賞者同士の交流の場が心の支えや情報交換の場にもなっているとのことです。
サイエンスグラントの審査員でもある北海道大学の有賀先生からは、学内で様々のワーキンググループや委員などには、女性の教員が少ないこともあって依頼されることも多いが、そうした役職も引き受けることで、学内での人脈づくりに役立つといったこと、また、ポストを得るには、「業績」がないと話にならないので、まずは、業績評価において点数化されたもの(論文など)で、実績をつくることが大事であるとのお話がありました。そして、適正な評価をと訴えるまえに、まずはその土壌に乗ることが大事であるとのアドバイスがありました。
最後に農研機構の食品総合研究所の矢部先生から研究者としての幸せは、研究し続けることではあるが、それだけでは、女性研究者に対する世の中の見方は変わらない。ポジションがあってこそ自分の研究分野をけん引できることができたり、女性のスタッフなどを積極的にサポートすることができるので、ぜひ、教授、学長となって意志決定機関に入ることを目指してもらいたいし、チャンスは必ずつかんで活かしてもらいたいという力強いエールがありました。
また、資生堂のサイエンスグラントとしても、多くの女性研究者の方にリーダーを目指していくことの背中を押すようなサポートもしていきたいということで、ディスカッションは終了しました。
午後は、いよいよ表彰で、今年度の受賞者の方へ、記念のたてと賞状が手渡されていきました。
今回授賞式に参加してみて、産業界のみならず、アカデミックの世界でも、より上をめざしその分野を引っ張るリーダーを目指すべきという動きがあることに、大変感銘を受けました。他先進国に比べ、女性研究者比率が少なく遅れている状況ではありますが、先生方の今後のご活躍に期待したいと思います! (矢部)