今回、お話を聞いた吉田さん(写真左)と海外出張での経験を語り合うマイクロンの女性社員たち(撮影:河西大地、(c)講談社)
スマートフォン、人工知能(AI)、5G、自動運転などの最先端技術の実現に欠かせない半導体メモリを開発・製造しているマイクロン。世界のメモリ市場でトップクラスの技術力とシェアを誇るマイクロンは、ダイバーシティ(多様性)、イコーリティ(公平性)、インクルージョン(包摂性)の三つ(以下、DEI)を尊重する企業文化の醸成に力を入れ、リケジョを積極的にサポートしています。
今回、お話を聞く吉田和博さんは、マイクロンで女性エンジニアを幅広い分野から採用することを推進した方です。「なぜマイクロンでは女性の採用を増やしているの?」「半導体にかかわる仕事をするには大学で専門的を勉強してないといけないの?」「世界を舞台に活躍するチャンスはあるの?」などなど、学生の皆さんが気になる質問をぶつけてみました。
マイクロンメモリジャパン株式会社 橋本サイト勤務
DEG レイアウト設計
ディレクター
──吉田さんの現在のお仕事について教えてください。
吉田:私はスマホなどのデータを一時的に保存する半導体メモリ、DRAMのレイアウト設計を担当しています。回路グループが設計した回路図をシリコンウエハー上に実現するためにトランジスター、抵抗、コンデンサーなどの電子部品の配置をパターンに落とし込み、それをデザインすることが仕事になります。
また他のグループでは評価にかかわる仕事もしています。これは、できあがった製品が実際にお客様の要求した機能を満たしているのか、不具合はないのか、ということを特殊な装置を使って確認する作業です。もし不具合があれば、問題点を解析してフィードバックします。全体として、回路設計やレイアウト設計、評価のそれぞれのグループ、さらに広島にある工場のみんなと協力して、よりよい製品をお客様に提供することが私の仕事になります
──吉田さんの部署には女性エンジニアが何人いらっしゃいますか。また、どんな研究分野の出身者が多いのですか?
吉田:レイアウト設計グループには現在16人の女性エンジニアが在籍しています。とくに私が採用を担当した2018年からは、文理不問でさまざまな研究分野から採用活動を行っています。実は、私は30年以上前にマイクロンの前身となった日本企業に入社したのですが、そのときから、さまざまな分野で学んだ人々が同期にいました。中には文系学部や音楽大学出身の女性もいましたが、みな、電気・電子を学んでいなくても、ちゃんと半導体の設計をこなしていました。
そういう経験がありましたので、2018年度の採用をしていく際に、幅広いバックグラウンドの女性を採用したいというアイデアを上司に相談して、承認されました。その結果、電気・電子以外の分野、たとえば生物、化学、数学、物理。さらには心理学、経済学、教養学、文学といった理工系以外のバックグラウンドの若手が入社し、現在、レイアウトグループで活躍しています。もちろん他のグループや部署でも電気・電子以外のさまざまな分野を学んだ人々が仕事をしています。
──マイクロンが幅広い分野で学んだ女性エンジニアの採用を増やしている理由は何ですか?
吉田:やっぱり、これまでエンジニア職に多かった「理系」「男性」とは違う視点で物事を考えることができる、ということですね。私自身、幅広い分野で学んだ人たちを採用することで、「設計アプローチに変化をもたらしたい」という思いがずっとありました。実際、女性や電気・電子以外の分野で学んできた人のデザインは、違いますね。「なるほど、こんな発想をするのか」と思わせる、予想もしていなかったデザインをすることがあります。
──女性のエンジニアや従業員はどれくらいの割合で増えているのですか?
吉田:マイクロン全体の数字で言うと、昨年は新卒社員の採用に占める女性エンジニアの割合は40%を超えています。女性比率は過去4年間で85%増加しています。来年の4月も同程度の女性従業員が入社する見込みです。
「女性が増えたことで、職場の雰囲気は本当に変わりました」と力強く語った吉田さん(撮影:河西大地、(c)講談社)
──女性の従業員や女性のエンジニアが増えていることで、どんな成果が社内で生まれていると感じますか?
吉田:これまで、我々のような技術系の職場では、やはり男性が大多数を占めていました。そのため男性の考えに基づいた企業文化が形成されていたと思います。でも、女性を積極的に採用し、女性ならではの視点を取り入れることで、先ほどお話ししたように、いい意味での化学変化が起こり、男性社員のマインドが少しずつ変わって、従来とは異なった文化が形成されています。
たとえば、女性には出産や育児といったライフイベントがありますので、うまくサポートしなければならないという気持ちが男性に芽生え、結果的に働き方が変わってきました。かつては時間をかけてでもガムシャラにやればいいという雰囲気もありましたが、どうやったら効率よく仕事ができるのかを考えるようになり、無駄をなくし、よりクリエイティブに仕事ができるようになったと感じます。
職場の雰囲気がガラっと変わったわけですが、個人的にも、すごく良くなったと思っています(笑)。女性が働きやすい環境は男性も働きやすいんです。とてもいいシナジー効果が得られている。我々は「エンゲージ!」と呼ぶ社員の意識調査を定期的に行っているのですが、実際、その結果を見ても、男女問わず、多くの社員が「職場の雰囲気が以前よりも良くなった」と答えています。
絶えず変化し、新しいことにチャレンジする、ということをマイクロンでは大事にしています。サンジェイ・メロートラ社長兼CEOも「最高のイノベーションは、チームメンバーが有するさまざまな経験、多様な視点、背景から生まれると信じている」と語っています。マイクロンでは「DEI」、ダイバーシティ(多様性)、イコーリティ(公平性)、インクルージョン(包摂性)の三つを尊重するという経営方針もありますので、今後もさまざまなバックグラウンドの人材を採用して、DEIをさらに進めていきたいです。
──ところで、半導体にかかわる仕事は、大学で専門的な分野で学んでないと難しいと考えている学生も多いと思いますが、マイクロンでは入社後にどんなサポートがあるのですか?
吉田:私は今年も採用を担当しているのですが、そういう心配をしている学生の声をよく聞きます。マイクロンでは入社後に、HR(人事部)での新人研修がありますが、そのあとは専門的な教育を約1ヵ月間行っていきます。専門教育で使用するカリキュラムや資料は、2018年に女性の採用を増やしたタイミングで、若いエンジニアたちがよりわかりやすいものに作り変えてくれました。それが今も活用されています。
これまで私が採用した女性エンジニアたちも、その資料に基づいて学んでいますが、「すごくわかりやすい」という言葉を聞いています。OJTも手厚く行っており、電気電子を専門的に学んでいない方でも入社後、問題なく仕事ができる環境が整っています。
──吉田さんは、個人を尊重してくれる文化をマイクロンの良い点としてあげていますが、若いエンジニアと接する際、どういうことを心がけていますか?
吉田:まずは、話を聞くことを心がけています。話を聞いてほしいという若手は、何か問題を抱えているという場合もあると思いますので、若いエンジニアと対話をするということを日ごろから実践しています。もちろん、先輩としての経験に基づくアドバイスをしていく場面もありますが、一方的に伝えるよりも、まずは若手の話を聞いて、本人がどういう考えを持っているのかをきっちりと聞きます。対話の中で解決策が見つかることもありますが、どうしても答えを見つけられない場合でも、暖かく見守ることを心がけています。
私は「ワーカーを育てるわけではなく、エンジニアを育てる」という気持ちで、若い人たちに接しています。エンジニアとは、上司の指示に従って動くだけでなく、自分でアイデアを見つけて前に進んでいける人のことだと思います。そういう人材に育つためには、若いうちはとにかく周りの先輩や上司に話を聞きまくることが重要ですし、それが仕事であり、成長の糧になります。だからこそ我々の側も、若いエンジニアの話を聞くことがすごく大事だと思っています。
吉田さんたちのチームが働いている、マイクロンジャパン橋本サイト(写真提供:マイクロンメモリ ジャパン)
──マイクロンでは全世界的にERG(従業員リソースグループ)の活動を支援、奨励しています。吉田さんはERGのひとつである『Micron Young Professional(MYP)』で若手エンジニアの社内の諸活動の支援をしているとのことですが、具体的にどのようなことをしているのですか?
吉田:橋本のMYPのスポンサーを務めています。スポンサーといってもお金を出すわけではありません。若いエンジニアたちがグループを作って、イベントやボランティア活動などを月に1回ほど行っていますので、それをサポートしていく立場になります。活動のメインは若手が中心で行っていますので、私はいわば相談役のようなものです。
橋本のMYPでは最近、新たに新入社員のメンタープログラムも立ち上げています。大学を卒業して社会人になって1年目や2年目の若い人たちはなかなか仕事のペースをつかめなかったり、会社になじめなかったりする部分もあると思います。そこをサポートするために面談やイベントを通して、若い人たちの悩みを聞き、先輩たちは自分たちの経験を話したりしています。メンバーのみんなが充実した活動ができていると話しています。
──若い学生の中にはグローバルに活躍したいという気持ちをもった方もいます。マイクロンに入社後、そのようなチャンスはあるのでしょうか?
吉田:海外出張のチャンスがありますし、Internal Job Opportunity Program(iJOP)というシステムもあります。iJOPは世界中で募集されているさまざまな求人に対してすべての従業員自身が応募できる仕組みです。このプログラムを通じて面接を受けて合格すると、自分のやりたい部署に異動ができますし、もちろん海外拠点の仕事にもチャレンジすることが可能です。キャリアの可能性は大きく広がっています。
マイクロンではグループや部署によって頻度は違うのですが、月に1回から多いところでは週に1回ぐらい、上司と1on1(ワンオンワン=一対一)のミーティングがあります。そこで現在の仕事の課題や問題点などだけでなく、今後のキャリア形成についてもしっかりと話を聞いています。もしグローバルで活躍したいなら、「エンジニアとしてもっとこういうスキルを学んだほうがいいよね」などとアドバイスし、育てながら仕事を進めています。まずは配属先の部門できっちりと技術を身につけて、次のステップアップをしたい人には背中を押してあげるような環境をつくっています。
──マイクロンには、他の企業にはない、職場環境の良さや特長がありますか?
吉田:マイクロンはアメリカに本拠を置く外資系企業ですが、「グループで仕事をやっていこう、社員を育てていこう」という、日本的な良さも持っていると感じています。マイクロンの外国籍の社員には優しい人が多いですし、そういう文化に共感してくれる人は多いと思います。同期や先輩、上司もちゃんと話を聞いてくれますし、その中で問題を解決していこうと考えてくれます。
私の働く橋本のオフィスにはいろんな国籍の方がいますし、海外の拠点で働く同僚たちとWeb会議で話したり、海外から出張で来られる方と仕事をしたりすることもあります。もちろん彼らとは英語でコミュニケーションをする必要がありますが、そこの部分をクリアできれば、世界中に友達ができるような感覚で仕事ができ、日本で働きながらグローバルスタンダートや異文化を学べる環境があります。そこがマイクロンの特徴であり、いいところだと思います。
──最後に就活中、あるいはこれから就活をする学生たちに対してアドバイスをお願いします。
吉田:私は、採用の際には、きっちりと自分の考えを話せるか、逆にわからないことがあったら質問ができるか、といった点を重視しています。女性には男性と比較してコミュニケーション能力が高い方が多いように思いますが、相手の話をしっかり聞く態度があり、自分の意見を言うことができる人であれば、未経験でも十分にエンジニアとして活躍できます。
また、マイクロンには入社してから、立派なエンジニアに育てるための環境やプログラムがあります。今後、AIや自動運転などが本格的に普及していくと、半導体メモリの需要はますます拡大しますので、マイクロンという会社の成長余力は非常に大きいと思います。やる気と興味のある方は、ぜひマイクロンに来てほしいですね。
(構成・文/川原田剛、撮影/河西大地)