イラスト:桜井葉子

昼はエンジニア。夜は悪キャラを倒す科学戦士。その名も「ミギネジ」!
和解の果ての共闘で、どんな敵にも負け知らず! 街の平和を守るため、今日も科学戦士は立ち上がる!

弟子・博夫の成長

私は、ミギネジ。
昼はエンジニアとして働き、夜は誰に言われるでもなく科学戦士をやっている。

「今日は17時から大事な技術会議があるからしっかり準備してね、ミギネジさん」
「承知しました」

エンジニアとしてものづくりの仕事を楽しむミギネジは、今日の技術会議に向けてたくさんの準備をしてきたのだ。

「さあ~て、今日も良い仕事をするぞ!」

ミギネジが気合いを入れていると、珍しく勤務時間中に博夫から連絡があった。

いつも仕事中には電話はしてこないのに……。なにかあったのだろうか……。
ミギネジは胸騒ぎがした。

「ミギネジさん、何かあった?」

上司が尋ねる。

「あっ、いいえ、なんでもありません!」

ミギネジは、自分が科学戦士をしていると上司にバレるのを恐れ、こっそり会社のトイレの中で携帯電話のメッセージを開いた。

そこには、博夫からの緊急メッセージが届いていた……!

「もくもくと煙を出しながら、氷みたいな冷たい粒を投げるもくもく星人が現れました!
たぶん氷だと思いますので、お湯で溶かしてこようと思います」

「ついに博夫も、相手の性質を逆手にとって倒す術を身につけてきたのね!」

最初は弟子を持つ自信のなかったミギネジだったが、弟子の成長する姿にトイレで感激していた。

博夫からのメッセージにあった「S」とは?

「いけ~、お湯!」

ジャーーー。

博夫はもくもく星人を相手にお湯をかけたが、お湯をかけたとたんに敵はさらにもくもくと煙を出す。
博夫は、大量の煙を吸い込んで息苦しくなってしまった。

「ただの氷じゃなかったのか……。くっそー! アイツはいったい何なんだ! ミギネジさんに連絡しないと……」

パタッ……。

博夫は、ミギネジにメッセージを送る途中で倒れてしまった。

博夫からのメッセージを見たミギネジは、愕然とした。

「S」しか書いていないからだ。

「S……、硫黄?」

残念ながらミギネジの好きな元素記号ではなく、博夫は「SOS」と書く途中で気絶したのだと容易に想像できた。

「もくもく星人」の正体がわかった!
ただ、あの人の協力が必要……

「大事な技術会議をとるか? 博夫をとるか? ええい!もう何もかも失ってもいいわ!」

ミギネジは気づけばBTB溶液を握りしめ、博夫のもとに向かっていた。

現場に落ちている氷のような粒をBTB溶液に入れると、緑色から黄色になった。

「やはり、ただの水道水でつくられた氷ではなかったか……」

水道水でつくられた氷であれば、BTB溶液は緑色から変わらないか、もしくはちょっと青っぽくなるのだ。

きっと敵は、BTB溶液を黄色にするから酸性の物質で、なおかつ氷のような形をした……

そう、ドライアイス(二酸化炭素)!

お湯をかけるとさらにもくもくしたのは、お湯が約-79℃のドライアイスで冷やされて水蒸気が白い煙のように見えたからだ。

さらに、お湯で溶けたドライアイスは二酸化炭素の気体になる。博夫はそれを一気に吸ってしまい、息苦しくなってしまったのである。

「敵が二酸化炭素ということは、石灰水でもかけるか……。
いや、テストの時みたいに『二酸化炭素といえば石灰水』みたいな常識に捕らわれるな、ミギネジ!
この街が白く濁った石灰水の沼になってもいいの!?」

ミギネジは、自問自答を繰り返し、あるアイディアを思いついた。

でも、その実現のためにはあの人が必要……。

そう、前回喧嘩別れした「光波ナミ」である。

あたりが暗くなってもなお、もくもく星人は容赦なく人間を襲っている!

さっそくミギネジは、彼女に連絡を入れた。

「前回はごめん、光波ナミ。減給と部署異動という弱みをついて悪かったわ。どうしてもあなたの力が必要なの」

「私がミギネジに協力するとでも? ふんっ!
そもそも、私これから社長との大事な会議があるので」

「あっ! 会議……。こっちは大事な技術会議すっ飛ばして来とんじゃー!!!!!!」

ミギネジと光波ナミは、もとは同じ戦士同士。
ミギネジの激しい怒りと覚悟を知って心が動かされ、光波ナミは現場に向かっていた。

「人を助けるために生まれたのよ、私の光は……」

光波ナミの必殺技がついに炸裂!

ミギネジは、森林のたくさんある公園までもくもく星人をおびき出した。

そう、「二酸化炭素」「水」「光」の三種の神器が揃えば、森林は“あれ”ができるのだ!

「いけぇ~、光合成!」

光波ナミが森林に光を当てると、森林は光合成を始めた。

森林は順調に二酸化炭素を吸い込み、でんぷんと酸素をつくっているようだ。

もくもく星人は抵抗することもできず、だんだんと小さくなっていった。

「もうあとは私に任せて、ミギネジ。大事な技術会議があるんでしょ」

「光波ナミ…。ありがとう! この恩はいつか返すわ!」

光波ナミは光を照らし続け、ミギネジは勤務先に向かって全力でダッシュした。

「ミギネジさん、先方が遅れたからよかったものの、遅刻だよ」

「申し訳ございません。がんばって走ったので、会議中は口から二酸化炭素が止まらなかったんです……!」

そう、人間の息にも二酸化炭素は含まれているし、なんならミギネジの頭の中は、二酸化炭素のことでいっぱいである。

「ん? 今、二酸化炭素とか言った?」
上司が尋ねる。

「いえ、なにも。会議に参加できてよかったです。明日もがんばりましょう!」

こうして、秘密と平和は守られた。

【博夫の必殺技】

必殺技名:「ドライアイスにお湯」
分野:化学
費用:★★☆、手間度:★★☆、危険度:★★☆

ドライアイスをよく見てみると、まわりにもくもくとした白い煙が出ています。
この煙は、ドライアイスが-79℃という低温であるため、空気中の水蒸気が冷やされて水となり白く見えているのです。

氷(固体)は温度が上がると水(液体)になり、さらに水蒸気(気体)へと状態変化しますが、ドライアイス(固体)は直接二酸化炭素(気体)に昇華するので、煙のような状態は見られません。

ドライアイスに(空気中よりも温度が高い)あたたかいぬるま湯をかけたらどうなるでしょう。

【ミギネジの予備実験室】

《準備するもの》
◎ドライアイス
◎ぬるま湯
◎三角フラスコ、ビーカーなど(耐熱のカップなど)

耐熱のカップにドライアイスを入れて、あたたかいぬるま湯をかけてみます。

ぬるま湯を入れた瞬間から、もくもくと白い煙がたくさん発生しました!
ぬるま湯によってより大きな温度差が生まれるので、空気中に置いておいた時よりも反応が進みます。

▼実験の様子は動画でもご覧いただけます。(ミキラボ・キッズ)

https://youtu.be/v5ujL_aEl9M

【ミギネジの必殺技】

必殺技名:「ドライアイスとBTB溶液」
分野:化学
費用:★★☆、手間度:★★☆、危険度:★★☆

BTB溶液を水で薄めた溶液にドライアイスを入れると…、

 緑色だったBTB溶液が、黄色に変化しました!

BTB溶液は酸性のものに反応すると黄色に、アルカリ性のものに反応すると青色になるという性質があります。ドライアイス(二酸化炭素)が水に溶けるとBTB溶液が黄色になったので、ドライアイスは酸性だということが分かります。

▼注意事項

・小学生など低年齢の子どもが実験するときは、必ず保護者の指導のもとで実施してください。

・ドライアイスが溶けて部屋などに二酸化炭素が充満すると酸欠になる恐れがありますので、換気をしながら取り扱ってください。車などで運ぶときなども同様です。

・ドライアイスは-79℃ととても低温なので、素手で触ると凍傷になる恐れがあります。
保護手袋をして取り扱ってください。

・ドライアイスをペットボトルやタッパーなどの密閉容器に入れると膨張し破裂する恐れがありますので、密閉しないで取り扱ってください。

また、容器などが破裂したときに破片が入らないように、あるいはドライアイスが目に入らないようにするため、実験の際は保護メガネを着用してください。


五十嵐美樹(いがらし・みき)
科学のお姉さん。1992年東京都生まれ。
東京大学大学院修士課程及び東京大学大学院科学技術インタープリター養成プログラム修了。
幼いころに虹の実験を見て感動し、科学に興味を持つ。学部在学時に「ミス理系コンテスト」でグランプリを獲得後、「老若男女問わず科学の楽しさを伝えるミス理系女子」として、子どもから大人まで幅広い層に向けた実験教室やサイエンスショーを全国各地で主催、講師を務める。
特技のヒップホップダンスで魅せる「踊るサイエンスショー」は好評を博している。


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