サイエンス・インカレは、自然科学分野を学ぶ全国の学部生が、自由なテーマで自主研究を発表し競い合う大会です。

昨年3月に開催された「第7回サイエンス・インカレ」でみごと表彰された研究テーマのなかに、とっても気になるユニークなタイトルのものを発見!

今回は「鏡の池の縁占いを科学する〜松江の恋愛スポット〜」という研究でサイエンス・インカレ奨励表彰を受賞された、島根大学総合理工学部 機械・電気電子工学科4年(受賞時は2年)の櫻井千寛さん(写真中央)と盛﨑光基さん(写真右)にお話を聞きました!

縁占いを科学すると、どのような結果になるのでしょうか?

 

恋が叶いやすくなる季節って、いつ?

──研究の内容を教えてください。

櫻井さん 松江市にある八重垣神社では縁占いが有名です。その占いは、「鏡の池」の水面に和紙を置き、和紙の中心に10円玉を置いて、それがどの程度の時間で沈むかで占うものです。15分以内に沈むと縁が近く、30分以上経っても沈まない場合は縁が遠いと言われています。

しかし、私たちが見たときはすべて15分以内に沈んでおり、基準が妥当なのか疑問を持ちました。

そこで本研究では、沈む時間にどのような要因が大きく関係しているかを調べ、一番早い時間で沈むときの条件を探すことで、どの季節に参拝するのが良いか検討をしました。

結果として、紙の沈み方には、水への混合物や水温の変化による表面張力の変化が影響していることがわかりました。

とくに、水温が高いときは早く沈みます。これは水温が上がることで分子の運動が活発になり、斥力が働いて表面張力が弱まることによるものだと考えられます。また、水の密度も影響していて、塩を多く溶かした水のほうが紙を早く沈めることも確認できました。

 

温度依存性と落ちる時間

 

また、島根県の魅力をサイエンス・インカレで発表することで、地域活性化に繋げることも本研究の目的としました。

「鏡の池」の水の密度や混合物等を調査することは今回はできませんでしたが、水温による変化が紙の沈む早さに大きく関係していることが分かりました。なので、夏の暑い時期に行けば、真冬の時より早く沈む可能性が非常に高いことがわかります。

夏に観光客を集めることができれば、観光客にとって良い占い結果が現れ、SNSや口コミで占いが広がることにより、地域活性化にも繋がると考えています。

「彼女がいない」ことも研究の原動力に!

──なぜこのようなユニークな研究をしようと思ったのですか?

櫻井さん 私は、学生団体 SINAPS(Super Interactive Network of Academic and Personal Study:学問的自主的研究の超双方向ネットワーク)に所属しています。

そこでは、自主研究を推進しており、各地で研究発表やワークショップなどを学生が楽しんでいます。「山陰の特徴を活かした文理融合分野の研究テーマを発掘」というテーマでワークショップを行ったときに、「鏡の池」の縁占いの基準についてアバウトだという意見が出ました。そこで、科学的に進めるにはどうするか話し合いました。

縁占いで用いられる「和紙と水」は、島根県の誇りです。人間国宝の安部榮四郎氏が作る手漉き和紙は日本でも有名な和紙。水に関しても、松江市内は水路が多いほか、日本酒の製造も盛んです。島根県といえば「御縁」というイメージもあり、これは島根のPRになると確信し、サイエンス・インカレ出場を目標に研究しました。

 

「御縁」の象徴、出雲大社

 

サイエンス・インカレでは「一目見て面白そう」と感じさせることが大切だと考えます。僕自身彼女がいないので、それもネタになると思いました。

それと、島根県の観光スポットが出雲大社だけと思われているのも寂しいので、「松江には『八重垣神社』という神話の始まりの場所があるんだぞ!」と自慢したかったのもテーマを決めた理由のひとつです。

予算はなんと5000円以内。頭と足で勝負!

──研究を進めるうえで大変だったことはありますか?

櫻井さん 自主研究なので、実験に使用するものは合計5000円程度のポケットマネーで出せる範囲のもので揃えるよう工夫しました(和紙、水を入れる桶、水に混ぜて実験をする食塩やお酢、カビ取り剤等)。

また、過去の論文をリサーチするだけでなく、和紙専門店に話を聞きに行くなどして、頭と足をよく動かしました。島根大学の環境分析化学研究室の江川先生に連絡をしてアドバイスをいただいたりもしました。

論文提出までの期間も限られていたので、空きコマは家に帰りひたすら和紙を桶に浮かべ、同時進行でデータ処理と調べものをしたことを覚えています。

盛﨑さん 沈む時間の理論式を出すために、沈む前に和紙の上にどの程度の水が湧いて沈むのか、量を計測したかったのですが、自主研究という形でやっているため装置がなく、何度も地道に実験をして出したことが大変でした。

また、和紙がすぐに沈まず、1時間経過することもあり、それを数十枚試すことも大変だったのを覚えています。

 

──研究の結果が、今後どんなことに活かされていけばうれしいですか?

櫻井さん 今回の実験データでは、「夏に行くと沈みやすい」という結果になりました。また、夏から秋にかけての島根は、水郷祭や松江水燈路といったイベントや、綺麗な海、宍道湖温泉街などのSNS映えするような場所が多い。そういった点を推しつつ、八重垣神社での夏についてもやんわり推していけたらいいなと思います。

 

 

盛﨑さん 地域活性という目標を込めた実験だったので、「気温が上がれば早く沈む」という結果を踏まえて、「夏は恋が叶いやすくなる季節」というような、ちょっとしたイベントを八重垣神社でやっていただけたら嬉しいです。

ホームページやパンフレットに頼らず「能動的発信」を!

──櫻井さん・盛﨑さんの今後の目標を教えてください。

櫻井さん 「受動的発信ではなく、能動的発信」を目標にしたいと考えています。

ホームページやパンフレットなどは、人が調べたり手に取ったりしない限りは情報を得ることができません。そのため、たとえばサイエンス・インカレのように、人が多く集まるところで自らプレゼンして能動的に発信することが、島根の魅力を伝えていくうえで大切なことだと考えています。

山陰地方には何もないと思われがちですが、しっかり時代に乗れるような場所や芸術、食事、お酒などもいろいろあります。それと何かをマッチングさせることで、さらに面白く、人の興味を惹けるものになると考えています。

まだ実現できるかはわからない段階ですが、次回のサイエンス・インカレ出場を目指して、今度は飯南町にある「しめ縄文化」に着目し、職人技の定量的評価を行い、暗黙値を形式値にし、プログラム化しようと考えています。また、後輩にもこういった流れを繋げて、サイエンス・インカレを通して学生間のコミュニティが広がっていけばいいなとも考えているところです。

 

出雲大社の大しめ縄

 

盛﨑さん 島根は観光で訪れる方が多く、歴史的なものもたくさんあり、魅力が詰まった県です。今回の私たちがやったような「実験でのPR」以外にも、さまざまな形で島根県の魅力を他県の人に伝えていけたらなと思います。

 

(本記事は「リケラボ」掲載分を編集し転載したものです。オリジナル記事はこちら

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