こんにちは! Rikejo事務局です。
3月17日に開かれる「ミライリケジョ ものづくりカフェ 2019」では、ロボットを使ったものづくりワークショップを開催します。
ワークショップの後半では、「水」を生かした街のアイデアを考えながら、ロボットが疾走するコースを作成!

この直前SP連載では、番外編として、イベントに参加する人も、今回は参加できなかった人も、一緒に私たちが「水」を使える理由を考えてみたいと思います。
第1回はこちら→<第1回 考えてみよう! 私たちが「水」を使える理由>https://www.rikejo.jp/article/24377

【今回はかなりハード!汗】
※このスペシャル講座は、ワークショップの内容を「深読み」するアドバンストコースです。今回の内容は、かな~りハードです! なので、とくに中学生のみなさんは「???」となるかもしれません。でも、科学っぽい「雰囲気」を楽しんでもらうことはできると思います! この記事の内容とイベント本編は直接的には関係ありませんので、イベントにはお気軽にいらしてくださいね!

水道の「魔法」

みなさんの生活に欠かせない「水」。
台所や洗面所、お風呂など、家にある「水道」の栓をひねれば、蛇口から水が出てきますよね。

でも、その水は、いったいどこから来るのでしょう?
ダムや川? 正解です。地域によっては、地下水を組み上げているところもあるかもしれません。
そのあとは、きっと浄水場で、水質をきれいにしているはずですね。

たとえば、東京都水道局の金町浄水場では、江戸川から取水した水を浄化して、1日150万㎥の水道水を東京の街に供給していると言います。

↓東京都水道局で活躍するリケジョが登場するビデオはこちら!<MXテレビ「都政広報番組 東京JOBS」2018年8月8日21時54分〜放送>

でも、浄水場から水はどうやって送られてくるのでしょう?

連載の第1回では、「川が上流から流れてくるのは、水が、水源から下流までの高低差によって位置エネルギーを持つから」ということをご紹介しました。

ところが、金町浄水場を地図で見てみると、川辺の低い土地にあることがわかります。

その標高は、海抜3m
それなのに、金町浄水場からは、東京の広い範囲に水が供給されているのです。

※上の図で東側のピンクの斜線部分から、隣接する青色、水色、中央の紫色の範囲さらには、23区を超えて国分寺市や立川市などの市部まで、金町浄水場からの水が供給されている。
拡大表示はこちらから→東京都水道局<東京の水道水源と浄水場別給水区域 (平成29年3月末現在)>https://www.waterworks.metro.tokyo.jp/suigen/map.html

たとえば、ミライリケジョ2019の会場である文京区音羽2丁目の講談社がある場所の標高は12.7m。
9mも高い場所で、水道の水が出るのは、どうしてなのでしょうか?

水道管の中では何が起こっている?

その謎に迫るために、今回はまず「水道管の中では何が起こっているのか」について考えてみましょう。

みなさんは、ハリウッド映画などで、下の画像のような場面を見かけたことはありませんか?

アメリカでは、路上に写真のような消火栓が突き出していることがあり、その栓が老朽化して緩んだりすると、水が隙間から勢いよく吹き出してきます。
水道水には高い圧力がかけられていることが見てとれますね。

普段、蛇口から出てくる水は、バルブによって流量が調整され、ゆるやかに水が出るようになっていますが、基本的に水道水には、浄水場で適切な水圧がかけられて、各家庭まで送られるようになっています。

水道管の中を流れる水のような流体の性質を研究し、1738年に『流体力学』"Hydrodynamica")を出版したのが、スイスの数学者・物理学者のダニエル・ベルヌーイ(1700〜1782年)です。


ベルヌーイの著した『流体力学』の第1章。水車や揚水機など水に関係する機械が描かれている。

ベルヌーイが考えたことを、簡単に説明してみましょう。

水道には、道路に埋まっている太い水道管と、各家庭まで水を届けている細い管があるのは、イメージできると思います。
こうした太さが違う管の中を、水が一定の状態で流れているとしましょう。

一定の状態で、というのは、厳密には「どの場所を選んでも、水の流れる速度や圧力が時間的に変わっていないと考えてよい」ということです。
このような流れのことを、「定常流」と言います。


wikicommonsより

途中で太さや位置が変わる、うねうねとした管の中で、図のように左から右に、水が流れているとします。
すると、ある時間Δtの間に、左側の細い部分を通る水の体積は、細い部分の断面積をA1、細い場所での速度をv1とすると、水が通過する距離s1=v1×Δtだから、

A1×s1=A1×v1×Δt

となります。
一方で、右側の太いところはどうでしょうか。同じように考えると、断面積をA2、速度をv2とおけば、

A2×s2=A2×v2×Δt

ですね。水はこの管の中をひとつらなりで流れているわけですから、同じ時間の間に、左の細い管を流れた体積と、右の太い管を流れた体積は同じはずです。つまり、

A1×v1×Δt=A2×v2×Δt

この一定の体積のことを、ΔVと呼ぶことにしましょう。

体積に密度を掛け算すると、質量になりますね。上のことは、
「管の中を流れる定常流では、質量が保存される」
と言い換えることができます。

どこかで聞いたことがあるでしょうか? 化学の授業で出てきたかもしれませんね。
そう、これはいわゆる、「質量保存則」に相当します。

他にも「保存則」がないかな?

とくに高校生以上のみなさんは、他にも「保存則」と呼ばれるものを聞いたことがありませんか?
有名なのは、「エネルギー保存則」というのがありますね。

みなさんは、こんな実験装置を見たことがあるかもしれません。

Newtons cradle animation book.gif
By DemonDeLuxe (Dominique Toussaint) - Own work, CC BY-SA 3.0, Link

これは、「ニュートンのゆりかご」と呼ばれる装置です(名前は愛称で、ニュートンが発明した装置ではありません)。
片方の端にある球体を、少し持ち上げてから、静かに手を離すと、振り子のように中心にぶらさがった球体にぶつかり、反対側の端にある球体が持ち上がります。

よく見ると、両端の球体は、まるで「ひとつの振り子の動きを半分ずつ行っている」かのように見えませんか?

前回(第1回)ご紹介した、位置エネルギーから考えてみましょう。
重力加速度をg、質量をm、基準面からの高さをhとおくと、位置エネルギーはm×g×hで計算できるのでした。

振り子がおり切った位置(ここを基準の高さとします)から高さhだけ持ち上げた球体は、球体の質量をmとすれば、mghだけの位置エネルギーを持ちます。
手を放して、球体が振り子運動をしたとき、高さは0になるので、位置エネルギーは0ですね。

でも、エネルギーはなくなってしまったわけではありません。
その証拠に、このエネルギーが衝突によって次々と球体に伝わり、最後には反対側の球体が振り子運動を行います。

振り子を離す前に球体が持っていた位置エネルギーは、「運動エネルギー」(kinetic energy)に変わっていたのです。

このような場合、エネルギー保存則(「力学的エネルギー保存則」)は、
「運動エネルギーと位置エネルギーの和は一定である」
と言い表されます。

「流れ」のエネルギーって?

では、いま考えているような、流れの持つエネルギーについては、どんなことが考えられるでしょう?
もう一度、さっきの図を見てみましょう。


wikicommonsより

まずは、前回から注目している、位置エネルギーについて考えてみます。
位置エネルギーはmgh、つまり「質量×重力加速度×高さ」で計算できるのでした。

上の図では、高さはz1からz2に変化しています。水の密度をρ(ギリシャ文字で「ロー」と読みます)とおくと、質量mはρ×ΔVとあらわせますから、位置エネルギーは次のように変化しています。

ρ×ΔV×g×z1ρ×ΔV×g×z2

運動エネルギーはどうでしょう?

【ここはアドバンスト! 読み飛ばしても大丈夫です!】
前回も考えたように、古典力学では、「エネルギー」とは、「ある経路で物体がした仕事の総和」のことでした。
時間tによって変化する力Fについて、微小な距離Δxずつ動いた仕事の総和を考えることは、Fをtについて積分するのと同じでした。つまり、

W=t0t1F(t)dxdtdt

今回は、ここでFが速度vで動いている物体の持つ力だと考えてみましょう。

ニュートンの運動方程式から力は、F=ma、つまり質量×加速度として計算できました。

速度は「位置の変化を時間で微分したもの」、加速度は「速度を時間で微分したもの」ですから、この式は、

F=mdvdt

と言い換えられます。

このFを、先ほどの仕事の式に代入し、さらに位置の変化xをtで微分したものを速度vに置き換えると、

W=t0t1mdvdtdxdtdt=t0t1mdvdtvdt

となります。

高校生で、微分・積分の勉強をしている人は、
「ふたつの関数fとgを掛け算したfgを微分したらどうなるか」
という公式を習ったかもしれません。

答えは、「片方を微分して、相手と掛け算した結果の和」です。

つまり、

ddt(fg)=fg+fg

ここでもし、f=gだったらどうなるでしょう?

ddt(f2)=ff+ff=2dfdtf

もうわかりましたか?
ここで、f=vとおけば、先ほどのエネルギーの式をさらに変形することができますね!

W=t0t1mdvdtvdt=t0t112mddt(v2)dt

tで微分したものをtで積分していますから、時刻t0のときの速度をv0、t1のときの速度をv1とおくと、この式は、

W=12mv12-12mv02

となります。

さっきの、ニュートンのゆりかごの球体のように、衝突して速度が0になった場合は、v1=0とおくことができますね。
すると、仕事はvの2乗のマイナスになります。エネルギーがそれだけ減ったのです。

一般的に、「運動エネルギーKは、運動している物体の質量mと、速度の2乗に比例する」とされ、

K=12mv2

とされます。

さきほどの流れをみると、質量はρ×ΔVでしたから、運動エネルギーは、

12ρΔVv1212ρΔVv22

と変化していることになりますね。

流れでは、もうひとつエネルギーを考える!

普通の物体の運動なら、「運動エネルギーと位置エネルギーの和が一定」という形で、エネルギー保存則が表現されていました。

ところが、いま考えているような液体の場合、もうひとつ、エネルギーの変化を引き起こす要素があります。
それは圧力です。


wikicommonsより

第1回でも触れたように、エネルギーの変化は仕事によって計算することができます。
それは、
「ある力Fで、ある距離xだけものを動かしたとき、仕事W=F×x」
として表現されたのでした。

いま、上の図のような管を考えると、左側の細い管では、断面積A1の部分に、圧力P1がかかっています。
圧力×面積を計算すると、そこにかかっている力になりますね。
そして、この細い管の中では、時間Δtの間に、水がv1×Δtの距離だけ動いています。
つまり、ここで圧力p1が行った仕事を考えると、

F×s1=A1×p1×v1×Δt

になるはずです。

しかし、最初にみた質量保存則から考えれば、A1×v1×Δtは一定で、ΔVと名付けたのでした。
したがって、これは、

F×s1=p1×ΔV

になりますから、圧力によるエネルギーの変化は、

p1ΔVp2ΔV

とわかります。

いよいよ! 全部足し合わせてみよう

さあ、これで水道管の中で起きている流れの、エネルギーの変化がすべてわかりました。
力学的エネルギー保存の法則と同じように、この定常流の持つエネルギーも、その総和は一定です。
つまり、

=ρΔVgz1+12ρΔVv12+p1ΔV=ρΔVgz2+12ρΔVv22+p2ΔV

全部の項にΔVが入っています。2つの項ではρも共通ですね。
これらは割り算してキャンセルしてしまいましょう!

gz1+12v12+p1ρ=gz2+12v22+p2ρ

……長い道のりでしたね!
これが、世にいう「ベルヌーイの定理」です。
ベルヌーイの定理は、流体におけるエネルギー保存則だと言うこともできます。

式の形を、じっくり見てみてください。
たとえば、家の1階と2階に蛇口があるとすると、2階のほうが、高さzが大きくなります。
すると、水の速度と圧力のほうが小さくならざるを得ません。

もし、これが2階ではなくて、3階、4階だったら……もっと小さくなってしまいますね。

この記事の前半でお話したように、東京の金町浄水場は海抜3m。
そこから9mも標高の高い、文京区音羽の講談社でも水道が出るということは、浄水場では非常に高い圧力をかけて、水を送り出している、ということなのです。

圧力pが十分に大きければ、もしzが大きくなって、圧力が小さくなっていってしまっても、蛇口から水を送り出すことができるからです。

では、浄水場などの水道施設では、どのようにして、そんな大きな圧力を水にかけているのでしょう?

ミライリケジョ2019、水を生かした街づくり大特集の次回は、水を送り出す「圧力」を生む秘密について考えてみます!