水を入れて練ると、色が変わってふわふわと膨らむ不思議なお菓子。1986年の発売以来、30年以上にわたって愛され続けている。ブドウ味とソーダ味のほか、『ゼリーねるねる』『なかよしねるねる』『まじょまじょねるねる』『パーティねるねる』といったスペシャルバージョンの商品も展開中。
http://www.nerune.jp/product/#neruneru
長年愛される定番製品から、画期的な新製品まで──実際に開発へと携わる方に、製品の特製や開発時のエピソード、研究開発職を目指す方へのアドバイスを「リケラボ」編集部がうかがう本企画。
今回は、クラシエフーズ株式会社にお邪魔し、『ねるねるねるね』について聞いてきました。お話をしてくださったのは、新卒入社後、食品研究所での勤務を経て、現在はマーケティング室で『ねるねるねるね』の企画担当をされている宮迫 雅さん(薬学部卒・2012年入社)です。
30年以上愛され続けるうちに変化した“伝え方”
──『ねるねるねるね』といえば、長年子どもたちに愛されてきたお菓子で、若い読者にもなじみ深いと思います。誕生の背景にはどんなことがあったのでしょうか?
『ねるねるねるね』は1986年に誕生し、おかげさまで30年以上販売させていただいています。
当時から当社では、水を加えるとジュースになる、粉末ジュースの素を販売していました。その技術を活かして面白いものをつくれないか、ということが発案のきっかけになったと聞いています。
当時の担当者は、砂場で子どもが泥団子をつくって遊んでいる様子を見て、アイディアが浮かんだそうです。
そのため、「子どもたちに楽しんでもらえるようなお菓子」という考えが原点になっています。
──30年以上愛され続けるなかで、変更・改良したことはありますか?
大きく変わった点をひとつ挙げると、魅力の伝え方でしょうか。
以前は魔女が出てくるCMの効果も相まって、“不思議さ”や“怪しさ”が、ヒットの要因かつアピールポイントでもありました。しかし、2000年を過ぎたころから売上が下がってしまったのです。
アンケート調査をしてみたら、「身体に悪そう」「おいしくなさそう」など、ネガティブな印象を持つ保護者の方が存在するとわかりました。
そこで、今の時代には“怪しさ”が合わないのだろう、ということになり、色が変わる仕組みやビジュアル、食感などの面白さや魅力を、パッケージ上でストレートに伝えるようになっています。
──たとえば、どんなことを伝えるようになったのですか?
まず、保存料や合成着色料が含まれていないことをわかりやすく記載し、安全なお菓子だとわかってもらえるようにしました。
ほかにも、「ふわふわお菓子」と、子どもにもわかりやすい表現で食感を伝えたり、完成後のビジュアルを載せたり。色が変わって膨らむ仕組みも、パッケージの裏に記載しています。
──色が変わったり膨らんだりする面白さは、『ねるねるねるね』に欠かせない魅力ですよね。パッケージにも仕組みが記載されているとのことですが、詳しく教えてください。
味、食感、発色のベストなバランスを探る
──まずは、ブドウ味の『ねるねるねるね』が、青色から赤紫色に変化する仕組みについて教えてください。
紫キャベツに含まれるアントシアニン色素の色がpHによって変化する性質を活用しています。
「1ばんのこな」には、アントシアニンと重曹が含まれていて、水溶液になると青色を発色します。
そこに、クエン酸が含まれる「2ばんのこな」を混ぜると酸性になり、赤紫色に変化するのです。
──では、ソーダ味が黄色から水色に変化するのはどんな仕組みなのですか?
ソーダ味の場合は、異なる色同士を混ぜ合わせることで変化させています。
クチナシの色素で黄色を発色した水溶液に、スピルリナからとった青色の色素が混ざって、緑がかった鮮やかな水色になるのです。
ちなみに、『ゼリーねるねる』という製品の場合は、アントシアニンの変化による赤色と、クチナシの黄色を組み合わせることで、オレンジ色を表現しています。
──表現したい色によって、pHの違いによる化学変化と、絵の具を混ぜるように色を組み合わせる方法の、両方を活用しているのですね。「1ばんのこな」の水溶液に「2ばんのこな」を加えて混ぜ合わせると膨らむのは、どんな仕組みなのでしょうか?
膨らむ仕組みには、重曹(NaHCO3)に酸を加えると二酸化炭素が発生する化学変化を活用しています。
「1ばんのこな」には重曹が入っているため、その水溶液に、クエン酸が含まれる「2ばんのこな」を加えると、二酸化炭素が発生します。
さらに、「2ばんのこな」には卵白や増粘多糖類が含まれているため、発生した泡が閉じ込められてふわふわの状態になるのです。
──よりおいしい“ふわふわ感”を実現するために、工夫されているポイントなどはありますか?
粉の配合に味や食感が左右されるため、砂糖や香料、重曹、酸などといった材料の、ベストな割合を工夫し続けています。
単純に、たくさん膨らませるだけであれば重曹や酸の割合を多くすればいいのですが、そうすると重曹の苦味が出てしまったり、酸っぱくなりすぎたりしてしまうのです。
風味が損なわれないようバランスを保ちながら、食感をより良くするために微調整をするのは難しいですが、何度も試作と試食を重ねて、地道に改良を続けています。
──発売開始から30年以上が経過した今でも改良が続けられているのですね。味も、少しずつ変化しているのでしょうか?
現在は、昔と比べて酸味が抑えられています。
2010年に行った調査で、今の子どもはすっぱさが苦手ということがわかりました。そこで、すっぱさを抑えて、より甘みを感じるようにしているのです。
──ということは、クエン酸を減らしたということでしょうか。色や膨らみの変化に影響はありませんでしたか?
先ほど、「食感を調整しながら風味のバランスを保つ」とお話したのと同じように、きちんと味と食感のバランスを保てるか、試作と試食を繰り返しています。
そのため、色の変化や膨らみを維持しつつ酸味を抑えられる配合を試行錯誤したうえで改良しました。
ちなみに、ソーダ味の『ねるねる』と一緒に食べるカラフルラムネも、「固い」といった声を多くいただいたため、ラムネを形成する打錠メーカーさんと相談し、固くなりすぎないよう改良されています。
──すっぱさが苦手だったり、ラムネを固いと感じたりすることが子どもへの調査で初めてわかったように、子どもと大人の味覚には差があるかと思います。普段、そのギャップはどうやって埋めているのですか?
試作段階のものを子どもたちに食べてもらい、評価してもらっています。当社で子ども向けの菓子をつくる際は、実際に子どもたちの反応を見ることを大切にしています。
子どもは、大人ほど事細かに感想を伝えることはできません。そのため、おいしそうにしているか、味以外のところでも、楽しくつくっているか、飽きてしまうことがないか、難易度は適切か……など、実際に様子を見てみないとわからないことがたくさんありますね。
──ちなみに、味や食感以外にもアップデートされているポイントなどはありますか?
子どもたちにより楽しんでもらえるよう、キャラクターの『ねるねくん』をトレーにかたどったり、最後まできれいに食べられるようスプーンの形状に丸みを加えたり、水を入れるときに使う三角形のトレーを、はさみを使わなくても切り離せるようにしたり……。口に入る部分以外にも、改良できる点は、マーケティングと研究所、そしてトレーメーカーさんなどの協力会社を交えて連携しながら工夫を重ねています。
お菓子で子どもの創造力を刺激する
──『ねるねるねるね』のパッケージに“知育菓子”と書かれていますが、知育菓子とはどんなものなのですか?
“知育菓子”とは、子どもたちに豊かな創造力を育んでもらいたいといった想いから当社が名付けたシリーズのお菓子です。粉と水から、お菓子を手づくりする体験を楽しめます。
2005年にシリーズが確立してから、『ねるねるねるね』も知育菓子の一員になりました。なかには、本物の料理そっくりなお菓子を手づくりできる『ポッピンクッキン』シリーズや、カラフルなグミやキャンディをつくれる『カラフルピース』シリーズ、スライムのような不思議なお菓子がつくれる『ふしぎはっけん』シリーズ、そして『ねるねるねるね』といった、4つのブランドがあります。
現在、全部で24種類の商品があるので、興味や年齢によって好きなものを選んで手づくりしていただければと思います。
ちなみに、一番幼いうちから楽しめるのが『ねるねるねるね』。粉と水を混ぜるだけでシンプルに楽しめるお菓子なので、社内でも「3歳になったらねるねるねるね」と言われています。
──知育菓子で、子どもたちに手づくり体験を楽しんでもらうために大切にされているのはどんなところですか?
子どもが夢中になってくれる行為を、手づくりの過程にちりばめるようにしています。
たとえば、混ぜたり、絞り出したり、スポイトを使ってみたり。
「ずっと混ぜるだけ」など、同じ動きが続かないように、変化を持たせながら最後まで楽しさを維持してもらえるよう考えているのです。
企業の研究と大学の研究の違い
──宮迫さんは、マーケティング室に異動される前は食品研究所にいらっしゃったとのことですが、そこではどんなお仕事をされていたのですか?
食品研究所では、キャンディチームで『ぷちっとくだもの』を担当し、新しい配合の検討などをしていました。
『ぷちっとくだもの』は、自分の手でぷちぷちちぎって食べることができるソフトキャンディです。子どもが簡単に手でちぎれるほどよい柔らかさを、微妙な配合で実現しています。
私が入社したのは商品が発売した直後のタイミング。そこで、配合をさらに工夫するべく研究をしていたんです。
──『ねるねるねるね』の配合と同じように、そちらでも何度も試作と試食を繰り返していたのですか?
そうです。でも、キャンディはひとつの配合を試すのに時間がかかります。配合を考えて、混ぜて、冷まして……と、形にしてやっと試食ができるので、一日に2〜3配合しか試すことができません。
そのため、研究所にいたころは、やみくもに試作せずに済むよう、より精度の高い仮説を立てられるよう心がけていました。
配合には、数字だけでは測れない、職人的な要素があります。研究所では少量の原材料で配合を試しますが、いざ工場のスケールでつくってみると、試作とはまったく違う仕上がりになってしまうことも多いのです。
このように、商品の研究開発では数値やデータでの仮説が立てにくく、学生時代の研究との違いを感じました。
──ほかにも、学生時代の研究と違いを感じた点などはありましたか?
いちばん違うポイントは、お客さまの存在です。
企業での研究は、最終的にお客さまに支持される商品をつくることが目的なので、常に顧客目線でイメージすることが大切なのです。
当社での菓子の開発も、まずは子どもたちにどうやって楽しんでもらうか仮説を立ててからスタートします。さらに、社内のほかの部署や、協力会社さん、そしてライバル企業さんなど、いろいろな相手を見ながらものをつくる必要もあります。
このような視点は、マーケティング室で仕事をするようになって、より意識するようになったことでもありますね。
“ものづくり”を幅広くとらえる
──マーケティング室ではどんなお仕事をされているのですか?
ざっくり言うと、中身の粉以外の部分をつくっているのがマーケティングです。粉をつくるのは研究所に任せながらも、企画の発案からプロモーションまで、幅広く“ものづくり”に関わっています。
以前は“ものづくり”といえば、研究開発部門の仕事だと思っていました。でも、『ねるねるねるね』でいうと、トレーやパッケージなども含めてひとつの商品ですし、それをお客さまにアピールして買ってもらうためには、プロモーションも重要になってきます。マーケティング室に来て、このようにものづくりのとらえ方が変わりました。
身近な食品ひとつとっても、食品そのものの開発以外に、香料や着色料などの原材料や、トレー、包材など、さまざまなメーカーが関わってつくられています。それに、パッケージデザインやCM制作なども、ものづくりのひとつです。
こんなふうに、視野を広げるといろいろな仕事が見えてきます。メーカーの研究開発職を目指すうえでも、実験するだけがものづくりというわけではない 、そして、商品そのものを開発するだけがものづくりというわけではない 、ということを理解しておくことが大切だと思います。
好きなもの、楽しいと思えるものの裏側にどんな世界が広がっているか見渡してみると、自分がどのようにものづくりに関われるのか、選択肢が増え、いろんな将来を想像できるようになると思いますよ。
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