Q:現在のお仕事について詳しく教えて下さい。
京都大学のiPS細胞研究所(CiRA=サイラ)でサイエンスコミュニケーターをしています。実際にどのような仕事をしているのかといえば、研究者が自分の研究や成果を一般の方にお伝えするのをサポートするのが仕事になります。
またCiRAは健康や病気に関する研究をしていますので、一般の方からも「こういう研究をしてほしい」「研究に関してこういう質問がある」という声が直接届きます。もちろん日本国内だけでなく、世界中からです。それらを集めて研究者にフィードバックし、一般の方と研究者をつなぐことも重要な責務です。
さらに広報という立場でもありますので、CiRAのアピールもしていかないといけませんし、メディアの方への対応もあります。CiRAの所長をつとめる山中伸弥教授の取材に立ち会ったりすることもあります。
Q:大学を出たあとは、教科書の出版社に勤務していたとお聞きしました。
もともと伝えることに興味があって、最初は教科書をつくる出版社に入り、高校の理科の教科書を担当していました。もしかしたら読者のみなさんの中には、私が携わった教科書を使っている方がいらっしゃるかもしれませんね(笑)。
教科書は文部科学省が定めた学習指導要領に沿った内容でないと出版できませんし、紙を使って文章でお伝えすることがメインとなります。でも紙だけでなくwebを使ったり、文章だけでなくて動画も使ったり、日本語だけでなく英語も使ったり……もっと自由に伝える仕事がしたいと思い始めていました。そんな時にたまたまCiRAで募集があり、縁があって、この1月から勤務することになりました。
Q:現在の仕事のやりがいは何ですか?
出版社に勤務していた時代と比べると、接する人の幅がすごく広がりました。教科書をつくっていたときは使っていただくのは生徒さんですが、選ぶのは学校の先生です。そうすると、エンドユーザーがなかなか見えませんでした。でも今はiPS細胞の医療への応用へ期待をかけていらっしゃる方から直接お電話をいただいて、ご意見を聞くことができます。やりがいを感じながら仕事ができていますが、中には切実な気持ちで電話をかけてくれる方もいらっしゃいますので、どのような言葉をおかけすればいいのか、非常に難しさを感じることもあります。
メディアの方からは「サイエンスコミュニケーターがいてくれたら助かる」という言葉をいただけるので、励みになりますね。教科書は学術的にある程度確立されたものが掲載されるのですが、ここではこれから教科書に載るような研究をしています。研究の最前線にいることができるのも楽しいです。
Q:これからの夢を教えて下さい。
日本ではサイエンスコミュニケーターはまだ新しい仕事なので、前例がなく、大変なところもあるかもしれません。でもいろんなチャレンジができると思いますので、これからがすごく楽しみですが、まずは目の前の仕事をきちんとして、社会に必要性を認識してもらいえるようになりたいと思っています。
それから現在は専門家から一般の方へ教える、啓蒙するという流れが強いと思いますが、一般の方にも意見をどんどん出してもらう場をどうやってつくるのか、というのが悩みどころですね。一般の方に、気軽に科学に触れていただく場をつくるのは本当に難しいと思っていますが、そこをうまくクリアして、一般の方の意見を吸い上げられる仕組みづくりを考えていきたいです。
もうひとつは研究者同士のコミュニケーションです。研究者の間でも分野や専門が違えば全然よくわからなかったり、手を取り合わなかったりすることあります。例えば科学と法律、政治はすごく密接な関係にあるのですが、うまく橋わたしができていなかったりします。東日本大震災のときにそれは露呈してきたと思いますので、専門家同士をうまくつないでいけるような仕事もしていきたいと思っています。
(取材・文=川原田剛 写真=井上孝明)