「私、数学がニガテで…どうしたらいいですか?」
こんな質問がRikejoのQ&Aサイトにもよく投稿されていますね。私も数学がニガテだったので、その気持ちよーく分かります。
でも、いまになって「もっと数学の楽しい話やウキウキする話を知っていたら好きになれたかもしれないのに!」と思うのです。そんなわけで、今回は数学にまつわるロマンあふれる物語をご紹介!
私が今回ご紹介したいのは「フェルマーの最終定理 」(新潮社)です。
一言で説明すると、「数学界の史上最大の難問と言われた『フェルマーの最終定理 』が発見され、証明されるまでのノンフィクションストーリー」なのですが、とても事実にもとづく話とは思えないほどドラマチックであり、ロマンにあふれた物語です。例えるなら、敵は数百年を生き続ける巨大モンスター。対するは古今東西のヒーローたち。私の頭の中ではほぼ「アベンジャーズ」のような風景です。
以下、その魅力を3つに分けて説明しようと思います。
1. 350年にわたる"ひらめき"のリレー
17世紀の数学者フェルマーが、こんな謎めいた書き込みを遺したことからすべてが始まります。「私は真に驚くべき証明を見つけたが、この余白はそれを書くには狭すぎる」。このあと、ワイルズという数学者が完全証明するまで、なんと350年以上(!)「フェルマーの最終定理」は数学者のあいだで常に解けない問題として立ちはだかっていました。この本では、その超難問がどのようにクリアされていったのをわかりやすく説明してくれています。
最初は「こんなの解けないよ!」と誰もが降参してしまうような超難問。まるで「進撃の巨人」に出てくる超大型巨人のような強敵ぶりです。しかし読んでいくうちに、この巨大な一枚岩のように見えた強敵を、数学者がどのポイントから突き崩し、最終的には完全にクリアすることができたかを追うことができます。そのプロセスは"ひらめき"の連続で、新しい進展があるたびに「そうきたか!」と唸らせられます。お話の後半で、一見関係のない別分野の定理が証明の鍵になるということが明らかになり、それが裏技のような働きをして大きな進展が起こるのですが、まるで映画を観ているかのような興奮を味わえます。
2. 数学者たちの意外な人間臭さ
この本では、この歴史的な成果に関わった数学者たちがたくさん紹介されています。数学者って、なんだか難しい顔をしていて仲良くなれなさそうなイメージがありませんか?でもここで紹介されている数学者たちはいろいろなエピソードを持っていて、思わず応援したくなります。
中にはオイラーのような超人的なキャラクターもいますが、女性が軽視された時代に果敢に挑戦をしたソフィ・ジェルマンや、政治活動のもつれから決闘を申し込まれ、死ぬ前日の晩に数学のアイデアを走り書きして20歳でこの世を去ったガロアなど、個性豊かな数学者が次々に登場します。一人ひとりの人生を追うだけでもそのドラマを楽しむことができます。
何より、最終定理へとつながる"ひらめき"のつながりは意外とギリギリだったり偶然だったりするので「もし、この人がここでこうしなかったら現在でも証明は完成しなかったのかもしれない…」などと思うと、ますます数学者たちが魅力的に思えてきます。
3. 「信じる」というエネルギー
数学者たちがよってたかってついにクリアされた「フェルマーの最終定理」ですが、実はフェルマー本人がこの命題を本当に証明できていたかどうかは怪しい、という意見もあるようです。いまとなってはそれが本当かウソかは分からないのですが、「フェルマーができると言っているからきっとできるはずだ」という信じることで、本当に証明を成し遂げてしまった、という事実は変わりません。これは実はスゴイことですよね!
最後に完全証明を達成するワイルズのエピソードが特に印象的でした。彼は10歳のときにフェルマーの最終的理を知ることになり、数学者をめざすことになったそうです。最初は全然別の分野を研究していたのですが、めぐりめぐって再びこの定理の証明に立ち向かうことになり、仕事に集中するために自宅の屋根裏部屋にこもって7年以上(!)没頭することになります。
さらに、一度はクリアしたはずの論文に致命的な欠陥があることが判明してしまい、その部分を修正するために最後の勝負に挑むのですが、このあたりはもう最終ラウンドを闘うボクサーを応援するような気持ちです。それこそ「あとは信じるしかない」といった状況になるのですが、最後にその障害をクリアする瞬間の描写の爽やかさはぜひ実際読んで味わってみてください。
いかがでしょうか?数学がこんなにロマンにあふれた世界だと知ったら、少し数学が好きになるかも?読んだ人はぜひ感想を教えて下さいね。
(長井悠)