女性に外科医は「難しい」?? それってホント?

みなさんは、「外科医」という職業について、どのようなイメージを持っているでしょう?

テレビドラマなどには、驚異的な能力や技術を持つ天才外科医が多く登場するので、自分とはかけ離れた存在、と感じる人もいるかもしれません。
あるいは、外科医になると長時間労働がつづき、出産や育児といったライフイベントとの両立が難しいというイメージを持っている人もいるでしょう。

たしかに、外科医は男性が多い職種であり、女性外科医の割合は8.7%にとどまっています(厚生労働省・令和4年「医師・歯科医師・薬剤師統計」)。
しかし、実際の女性外科医は、決してスーパーウーマンばかりの集団ではなく、仕事と家庭を両立させている普通の女性です。また、若い世代では女性外科医が増加する傾向にあります。

それでもなお、「外科に興味はあるんですけど、体力や家庭と両立できるかが心配です」と、医学の道を歩みはじめて医学生や研修医になった人々の間でさえ、外科医が女性にとっては難しい職業だ、というイメージを持つ人は、まだまだ多くいるのが実情です。

今回は、そんな日本の現状を少しでも変えるべく、日本女性外科医会シスメックス株式会社と共催する、外科医の仕事を紹介するイベント「hinotoriセミナー For Girls!」の様子をご紹介します!

「メスの力で、折れない翼を」!

このイベントは、日本発の手術支援ロボット「hinotori」を、中高生が実際に操作できる体験プログラムを盛り込んだ、大好評のイベント。
2023年10月に開催された第1回が、このマシンに中高生が触れた、史上初の機会でした。

イベントのテーマは「Breaking glass ceilings! メスの力で女子学生に折れない翼を」。
「ガラスの天井」「壊れたはしご」……女性の社会的成功が難しいことを表現するさまざまな言葉は、残念ながら現在でも世界のあちこちで語られています。

たとえば、2019年には東京大学の入学式の祝辞で、社会学者の上野千鶴子さんが「ほとんどの女学生が、翼を折られて大学に入る」と言及し、話題となりました。
先ほど述べたように、医学を志す医学生や研修医でさえ、「女性である自分には外科医は無理ではないか」と考えてしまうこと、こうした現象を社会学用語では「aspiration cooling down」(意欲の冷却)と呼ぶとされます。
まさに、上野さんが指摘した、「翼を折られた」状態なのです。

このイベントでは、こうした現状に危機感を持つ日本女性外科医会が、外科医の仕事の実態を正しく伝えることを目指して開催されました。
強調されたのは、外科に興味を持ち、なりたいと望むなら女性だからと外科医になる道をあきらめる必要はまったくない、ということです。

「外科医で二児の母」は決して「夢」じゃない!

第1回のイベント当日は、中高生8名が参加。2人の女性外科医が、自分たちの仕事を紹介する講演を行いました。

まず登壇したのは、東京大学消化管外科の野村幸世先生。
「医師という仕事を選ぶ」というタイトルで、職業選択で何を大切にすべきかという、若い学生のみなさんにとって重要なテーマでお話をいただきました。
つづいて、国際医療福祉大学消化器外科(現・東京大学医科学研究所病院外科)の向山順子先生から、「外科医のすすめ」という題で、外科医という職業の楽しさや、やりがいについて語られました。

注目したいのは、両先生ともに、それぞれ二人の子供を育てながら、外科医の中でもハードとされる消化器外科医をつづけていること。また、米国で研究者としても働いた経験があることです。
参加した学生のみなさんは、これまで抱いていた女性外科医とのイメージの違いに驚き、二人のお話に聞き入っていました。

支援ロボットで外科はもっと「挑戦」しやすく

イベントの後半は、シスメックス社による日本発の手術支援ロボット「hinotori」の説明と操作体験!
この手術支援ロボットは、ロボットが自動で手術をするというわけではなく、医師が「コックピット」という操縦機器から、患者さんの身体に接続された機械をあやつり、手術をする仕組みです。
安全に手術を行うためには、一般的な手術に必要な知識・手技に加えて、機械操作の習熟が必要になります。

参加者は、実際に手術で使用されているものと同じhinotoriのコックピットに座り、フルハイビジョン3Dシステムの高精細画像を見ながら操作を体験。
挑戦した課題は、外科医が機器操作の練習で行う「鉗子で輪を移動させる」というタスクや「穴に鉗子を通す」タスクです。

参加した中高生は、意外にも、初めて触るとは思えない適応力で、次々とタスクをこなしていきました。操作終了後も、「もっと触りたかった」と感じている様子がうかがえました。
指導役の外科医の先生方は、そんな参加者たちの前向きな表情に希望の光を感じたようです。
こうしたイベントを通じて外科医の仕事の楽しさに触れ、少しでも身近に感じることができれば、将来の職業選択時に「翼を折られる」人も減るかもしれません。

そんなhinotoriセミナー、第2回は令和6年11月3日(日)に、神戸にて開催予定とのこと!
外科医の仕事、手術支援ロボットに興味のある女子学生のみなさんは、ぜひ参加してみてはいかがでしょうか。

写真提供:向山順子氏

参考: 日本女性外科医会(JAWS)