私たちの生活の中には、「科学」で説明できることが多くあります。
見慣れている身の回りの自然を改めて科学的な視点で眺めてみると新しい発見や感動が味わえます。毎日少しずつ変わる四季の変化から、いろんなサイエンスを親子で楽しんでみませんか。
春の花をさがしてみよう
温かくなった春の日差しを感じて、多くの植物たちが活動の準備を始めます。
お家のまわりを調べてみましょう。葉が一枚もない枝にもつぼみがたくさん膨らんできています。木の上だけでなく足元の地面にも小さなかわいい花がたくさん咲いています。
どんな花が咲いているでしょう?
家から見える街の風景、庭先や道端に咲いている春の花、いくつ見つかりましたか?
最近ではインターネットやスマホのアプリでも植物の名前を調べることが出来るようになりました。見つけた植物の名前を調べてみましょう※1。
早春に咲く花
2月はじめ、Yumiのお家の周辺には、スイセンやフクジュソウ※2、ロウバイ※3やレンギョウ※4、サンシュ※5などの花が見られるようになります。
他にもタンポポやマリーゴールド、フリージア、キンポウゲなど多くの花が見つかることでしょう。
フクジュソウ(福寿草)はおめでたい花として知られています。ロウバイ(蝋梅)はウメの仲間ではありませんが、蝋細工で出来た梅に似ていることからこう呼ばれています。レンギョウ(連翹)は、中国に咲くトモエソウ(生薬名を小連翹)と間違って「連翹」と言ってしまったことから付けられた名前です。
多くの植物は昔から薬に利用されたり、アロマテラピー効果が見つかったりしています。春の暖かさを運んで来てくれる黄色い花を見ると、ほんの少し気持ちが明るくなりますね。
花は木にも咲いていますし、足元の小さな植物にも見られます。
花が咲いている木は、冬には葉を落として枝だけになっているものが多く、葉が出る前に花がまず咲くものが多く見られます。葉がないので花は大変よく目立ちます。
足元の小さな植物には、地面に広がった葉が見られますが、花は一番高いところに咲いています。上から見て大変よく目立ちます。
花の大きさは小さく、たくさんいっせいに咲く花が多いことにも気づきます。その花の色は白色~黄色が多いことも特徴であることがわかります。
一般的に、春という季節(2~4月ごろ)に咲く花には黄色い花が多いという話があり、その中の多くは早春に見られるという話があります。
早春の道端をよく観察してみると、タンポポやレンギョウ、スイセンなど確かに黄色い花が目立ちます。私たちがよく知っている花にも黄色い花がたくさんあることがわかります。
早春に咲く花にはなぜ黄色っぽい花が多いの?
早春の花には黄色が多いのはなぜなんだろう?
それはね、植物がどうして花を咲かせるのか、その理由を知るとわかりやすいよ!
黄色い花をよく観察してみましょう。
早春に咲く花には種子植物(種によって生命を引き継ぐ)、中でも被子植物が多いことに気が付きます。
花にはおしべとめしべがあります。おしべの先にある花粉がめしべの先にある柱頭に運ばれなければ受粉できず、植物は種子を作ることができません。おしべの花粉はめしべより高い位置にあります。めしべの柱頭に花粉をはこんでくれるものは一体なんでしょうか。
陽だまりに輝く花を見ていると、時々小さな虫がやってくることに気が付くことでしょう。ハエやアブの仲間は早春に、他よりも一足早く活動を始める昆虫類です。
人は可視領域(おおよそ400~800nm)の光を認識することが出来ますが、昆虫類は300nm〜650nm付近の短波長の光が認識できると言われています。つまり紫外線や青色系統の光に敏感に反応するのです。
花が黄色に見えるのは私たち人間の目で見た感覚であって、昆虫たちにはこれらの花は青く見えていると言われています※6。
春に咲く花
もう少し暖かくなってくると、春の花が一斉に咲き始めます。ウメやボケ、ツバキ、シバザクラ(芝桜)など色のはっきりした花が増えてきます。やがて桜が開花し、ツツジが後に続きます。
早春の花と春の花、なんだか違うなあと思いませんか?
そう、今まで黄色い花が多かったのに、春本番になると今度は赤色系統の花が目立つようになります。
赤い梅の花のヒミツ
黄色い花の次に、赤い花が多く見られるようになるのはなぜでしょうか。
黄色い花と同じように、赤い花も観察してみましょう。
例えばウメ。各地には梅の名所がたくさんあります。紅白の梅の花がたくさん咲きそろった梅林の春はとても美しく、よい香りが一面に漂います。ウメも被子植物で、花粉がめしべの先につくことにより種ができ、ウメの種ができることになります。
梅林の梅の花はどんな生き物に受粉をしてもらっていると思う?
見に行ってみようよ!
ウメの花にはアブなどの小昆虫もやってきますが、それに加えて目立つのは小鳥たちです。
花札にも「紅梅とウグイス」が描かれているように、ウメにはウグイスやメジロ、スズメなどの小鳥がやってきて花の蜜をついばんでいます。そして小鳥がやって来るウメは紅梅が多く白梅にはほとんどやってきません。
なぜ小鳥たちは赤いウメの花に集まってくるのでしょうか。
考えてみれば、柿やザクロ、リンゴ、みかんなど、鳥がついばみに来る果実には赤~オレンジ系統の色が多いことがわかります。秋の実にはナナカマドやガマズミ、サンゴジュなど赤いものが多く、鳥は赤くなった果実をついばんでいます。
鳥の目には赤い色がよく見えると言われています※7。
鳥媒花と呼ばれる、鳥に受粉をしてもらい子孫を残す植物には赤っぽい花が多く見られます。
花は一色で模様のないものが多く、鳥がとまることが出来る丈夫な枝があります。花には香りの薄いものやほとんどないものが多く見られます。花にはたくさんの蜜がありますが、甘みの少ない薄い蜜を分泌する花が多く見られます。
ウメの花は紅梅より白梅の方が香りが強く、虫がたくさん集まっていることが観察できるかと思います。
初夏の花にもヒミツがある?
季節はどんどん移ろい、ゴールデンウィークの頃ともなれば、フジやアヤメ、シランなどの花が咲き始めます。初夏に向けて気温がどんどん上昇し、30℃近い夏のような日もあります。
野山では鳥が巣作りを始め、ヒナを育てるためにせっせとエサを探して飛び回っています。南の国からツバメが渡って来るのもこのころです。
多くの生命をはぐくむ一年でもっとも豊かな季節が巡ってきます。昆虫ではさなぎからチョウが羽化し、卵から孵化(ふか)したイモムシが活動を始めます。イモムシを狙って狩人蜂もやってきます。冬眠から目覚めたクマやリスなども野山を駆け回ります。
このような季節に咲く花には青い色の花が増えてくることに気づくでしょうか。
なぜこの季節の花は青い色をしているのでしょうか。
植物が持っている青系統の色素の多くはアントシアニンという種類の化合物による色です。ブルーベリーにも多く含まれていて、目に良いとされている成分です。
次回の「光のおはなし」で詳しく説明しますが、花が青く見えるのは太陽の光から青い光だけを反射し私たちの目が青い光を認識しているからです。同じく赤い花は赤い光を反射しているから赤く見えているのです。光はある波長を持っていて、波長によって持っているエネルギーが異なります。
赤外線ヒーターは暖房器具に使われているように、私たちを温めてくれます。まだ寒い春先の赤い花の中は虫や鳥にとって天然の暖房器具です。
初夏の青い花は、赤い光を吸収してしまう花。5月といえば梅雨を間近に控えた初夏の季節。日によっては最高気温が30℃近くに達する暑い日もあります。そんな中、青い花は暑さを凌げる虫の絶好の避暑地となるわけです。
私たちは、夏になると白っぽい服を着て涼しく過ごし、冬には黒っぽい服を着ることが多いです。黒い自動車は白い自動車より車内温度が高くなり、夏はサウナのように暑くなります。
植物は、その季節季節に応じた色彩を工夫し、お食事にやってくる虫や鳥たちをもてなしているように見えますね。
🦋さらに詳しく知りたい方へ
※1
「牧野日本植物図鑑」が日本の植物図鑑の最高峰とされ、この図鑑の中には日本に生息する植物50万点のデータが記載されています。「日本の植物学の父」と言われた牧野富太郎氏は、日本全国を歩き回って植物採集と分類を行い、当時知られていなかった新種を次々と発見したと言われています。牧野氏が命名した植物は1500品種にも及ぶと言われています。「原色牧野富太郎植物図鑑」は科ごとに何巻にも分けられてまとめられていますが、現在は「新牧野日本植物圖鑑」としてコンパクトに1冊にまとめられたものもあります。それでも大変高価な図鑑です。
私たちが使いやすい植物図鑑は小学館や保育社などから多数出版されています。携帯に便利なポケット版もあります。身近な野草ばかり集めたものや、樹木に特化した図鑑なども見られます。
花の色や咲いている季節などから検索できるインターネットのサイトや、花の写真を撮るとその名前が表示されるスマホアプリも見られます(ただし、まだまだ誤認識も多く見られ、改善の余地があります)。
ポケット図鑑「植物」、保育社(昭和52年)は、筆者が子供の頃に父に買ってもらったA6版の文庫タイプの図鑑で、野原に出かける時はよく使用したものです。身近な野草はほとんど掲載されているので、たいていの場合これで調べることが出来ます。是非使いやすい図鑑を見つけてください。
※2 フクジュソウ(福寿草)について
キンポウゲ科の多年草で、学名はAdonis multifloraです。ガンジツソウ(元日草)とも呼ばれ1月1日の誕生花にもなっています。日本には4品種自生しており、一般的に福寿草というと、エダウチフクジュソウ(Adonis ramosa)のことを指す場合が多いようです。年賀状のデザインなどに使われるおめでたい植物として知られていますが、根にはアドニン、シマリン等の強心配糖体化合物が含まれる毒草です。若芽はフキノトウとよく似ており、葉はヨモギによく似ていることから、たびたび誤食事故が起きています。
※3 ロウバイ(蝋梅)について
クスノキ科の落葉樹で、学名はChimonanthus praecox。ウメはバラ科の落葉樹であり、ロウバイは正確にはウメの遠縁種に相当します。花びらに光沢があり蝋細工のようにみえることからロウバイと呼ばれています。花や蕾から得られる「蝋梅油」は古く中国では火傷,解熱,鎮痛薬として用いられてきた歴史があります。
蝋梅のほのかな香りはシネオール、ボルネオール、リナロールなどが主成分で、鎮静作用,精神安定剤,空気清浄などのアロマテラピー効果が知られています。蝋梅の香りは抽出時に芳香成分が分解してしまうため、蝋梅から得られた精油は市販されていません。
参考)蝋梅から得られた香りの効果(Kataribe)、薬草園の世界「ロウバイ」(東邦大学メディアネットセンター)
※4 レンギョウ(連翹)について
モクセイ科の植物一般を指し、学名はForsythia suspensa。中国原産のオトギリソウ科の植物にトモエソウというのがあり、これの生薬名が「小連翹」といいます。日本で間違って呼ばれたことがレンギョウという名前の由来になっています。レンギョウは18世紀の薬草の教科書「神農本草経」にも記載され、古くから根は翹根(ぎょうこん)として炎症薬に用いられていたことがわかります。現在でも防風通聖散などの漢方薬に用いられ、高血圧や、肥満による動悸・肩こり・のぼせ・むくみ・便秘、肥満体質などに利用されています。
神農本草経は、三皇五帝のひとり「神農」が生薬について解説した本で中医薬学の基本となった書物です。植物、動物、鉱物から得られる合計365種の生薬についてまとめられています。
参考)生薬の花「レンギョウ」(日本薬学会)、生薬解説「レンギョウ」(ハル薬局)
※5 サンシュ(山茱萸)について
ミズキ科の落葉小高木で、学名はCornus officinalis。日本名はハルコガネバナ(春黄金花)といい、早春に葉が出る前に一斉に黄色い花が咲く様子から付けられた名前。中国・朝鮮半島が原産で日本には江戸時代に持ち込まれました。現在はもっぱら観賞用植物となっていますが、当時は薬用植物として利用されていました。生薬には果肉が滋養強壮、頻尿、収斂、冷え性、低血圧、不眠症などに利用され、牛車腎気丸、八味地黄丸などの漢方薬にも含まれています。
宮崎県の民謡に「ひえつき節」というのがあり、「♪庭のサンシュの木に~」と歌われますが、これは山椒のことであり、ここでいうサンシュとは全く別の植物です。
※6
コバエ駆除する粘着シートの中には黄色い色をしたものが売られています。この黄色はハエにとっては青く見えるということになり、芳香成分という誘引物質だけでなく色でもハエを惹きつける効果があることを狙った製品です。
宇都宮大学・杉田教授は、紫外線を遮断する黄色い色素を含む袋の中身が見えないことを発見しました。カラスは4色型色覚を持つ生物ですが、その視覚認識のほとんどを紫外線で判断していることがわかってきています。
この知見を利用して、東京都杉並区では黄色いゴミ袋「カラス対策ゴミ袋」を導入したところ、カラスのゴミ荒しの被害が激減したそうです。ほかの自治体でも黄色いネットを使用したり、カラス対策にこの黄色い色素の利用が応用されています。
参考)杉田昭栄「カラスとかしこく付き合う法」草思社(2002)
※7
動物の目は、光の強さ、時間、面積、順応状態に応じて光を「色彩」として識別していると言われています。目(視覚)には視細胞の一種で「錐体細胞」と呼ばれる色覚を識別する細胞が網膜の中心部である黄斑付近に分布しています。
視細胞には錐体(すいたい)細胞と錐体(かんたい)細胞が存在し、錐体細胞は感度が弱いながらも色覚判別に大きく寄与しています。錐体細胞には何種類かあり、それぞれ感受性の異なる色覚閾が知られています。
一般的な人種の場合は、赤~黄色域を認識するL錐体、青~紫色域を感受するS錐体、そしてそれらの中間域である緑~青色域を感じるM錐体の3種類の錐体細胞を持っています。そのため私たちは可視光域と呼ばれる400~800nm付近の光を識別することができるのです。虹が七色に見えるというのは、私たちが人間であるからであって、ペットであるイヌやネコには虹には七色も見ないかもしれないのです。
人の場合はS・M・Lの3つの錐体細胞を持ち、RGBの3色が見える「3色型色覚」に分類されますが、鳥の場合はこれに紫外領域を識別する4つ目の錐体細胞があり、「4色型色覚」と呼ばれます。それぞれの錐体細胞の感度はヒトとは異なり特にL錐体の感度が高いため、鳥の目には赤い花がよく目立つということになります。
植物は自分自身では動くことができない反面、鳥に見えやすい色とエサ(甘い蜜)で鳥の注意を惹きつけて、食事を提供する代わりに受粉を手伝ってもらっているのです。しかも時には、花には鳥の好物かつ高たんぱく源である小昆虫もやってきます。
小昆虫は鳥の餌にもなります。鳥にとって赤い花は、花の蜜だけでなく様々な栄養が摂れるおいしいレストランでもあるわけです。
花によっては、蜜はなく花弁や花粉が鳥のエサになることもあります。
春に咲くコブシの花は蜜を持たないけれども、花弁が鳥の栄養となるためヒヨドリがやってきます。花弁を食べる際に受粉が行われ、コブシは鳥の力を利用して受粉を行っていることがわかります。
参考)堺章著「新訂目でみるからだのメカニズム」医学書院(2012)、涌井貞美著「[図解]身近な科学 信じられない本当の話」KADOKAWA(2018)、上田恵介著「遺伝子から解き明かす鳥の不思議な世界」一色出版(2019)
理学修士(ペプチド化学)。環境分析、バイオ細胞実験、マルチスケールの有機合成、HPLCでのキラル分離など幅広い業務を経験。2018年10月よりパーソルテンプスタッフ研究開発事業本部の社員。現在、高分子合成の研究職として勤務。
甲種危険物取扱者、有機溶剤作業主任者、毒物劇物取扱者などの専門資格の他、花火鑑賞士、温泉分析書マスター、京都検定、AEAJ認定アロマテラピーインストラクター、ハーブコーディネーターなどの民間資格を所持し、児童対象の科学実験教室ボランティアなどで活かしている。
趣味はバイオリン、旅行、写真、散策、アロマクラフトなど。
(本記事は「リケラボ」掲載分を編集し転載したものです。オリジナル記事はこちら)
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