多種多様な理系社会人のインタビューを通じて、やりがいと誇りを持てる働き方を探る「理系のキャリア図鑑」シリーズ。
今回は、身近にあるのに意外と知らない半導体の製造工程や、グローバル企業で働く魅力について、半導体製造装置メーカーのリーディングカンパニー、ラムリサーチの日本拠点で活躍するシンディさんにお話を伺いました!
半導体製造における最適なプロセスを確立していく仕事
——ラムリサーチにはどんな仕事があるのでしょうか?
Lam Researchはカリフォルニアのフリーモントで半導体製造装置の開発を手掛け、世界18ヵ国の拠点でお客様に対してカスタマーサービスやプロセスエンジニアリングを提供しています。日本の拠点では、当社の装置をお使いいただいている半導体メーカー様のサポートをメインの業務としています。
具体的には、装置の設置と保守、トラブル対応、生産効率の改善といったものですね。これらの仕事をハードの面からサポートを行っているのが、フィールドサービスエンジニアと呼ばれる職種となります。フィールドサービスエンジニアは、お客様である半導体メーカーの工場内にチームで出向き、当社の装置をお客様の要望通りに的確に稼働させるのが仕事です。
もう一つフィールドプロセスエンジニアという職種があり、こちらは、お客様に半導体製造装置の最先端のプロセス技術を導入するサポートや、各評価項目に対し、お客様の要求する目標値を達成するためのプロセス条件を確立していきます。
——シンディさんはフィールドプロセスエンジニアですよね。具体的な仕事内容について教えてください。
私が所属しているのは、プロセスグループで、担当の装置は半導体の成膜を行う装置です。成膜のプロセスを最適化するためには、温度、圧力、ガス流量、時間などいくつもの項目の調整が必要です。最も性能良く効率的な条件を見つけ、製造プロセスを改善していくのが私の仕事です。また、アメリカで開発された最先端の次世代装置のプロセス開発のサポートもしております。
——半導体製造の工程について、詳しく教えていただけますか?
半導体製造には前工程と後工程があり、Lam Researchは前工程用の製造装置を開発しています。その前工程のひとつに成膜があります。シリコン素材でできたウェハと呼ばれる薄い円盤状に切り出したものの上に回路の素材となる酸化シリコンなどの絶縁体を成膜したのち、露光とエッチングで回路パターンを形成し、タングステンなどの金属膜を埋め込みます。
この工程を繰り返し前工程が終了し、後工程を経て半導体が出来上がります。
半導体製造の8つの工程:①「ウェハ」から始まり、②「酸化」③「フォトリソグラフィ」④「エッチング(*)」⑤「成膜」⑥「配線」までが前工程、⑦「検査」⑧「パッケージング」が後工程です。
*エッチング:ウェハ上に回路を描くリソ工程が完了した後に、液体、ガス、またはプラズマを用いて不要な酸化膜を除去して半導体のパターンを残す工程。2020年3月に発表されたLam Researchの「Sense.iプラットフォーム」は、チップ量産プロセスの生産性を向上し、革新的なセンサーテクノロジーを提供する、画期的な半導体装置。
——けっこうたくさんの工程があるのですね。それぞれの工程では、まったく別の異なる高度な知見と技術が必要とされているのがわかりました。
私は成膜工程でのプロセスに特化していますが、そこでも、プロセスの改善とプロセスの開発と大きく分けて2種類あります。
プロセス改善は、最適な成膜工程を実現するためのプロセスエンジニアリングです。加工や薄膜の成膜工程における、反応温度や圧力、ガス流量や反応時間といった各条件の最適化を行い、プロセスの改善をしていきます。日々お客様と打ち合わせをし、また工場に出向いて実験を行い、設定した条件の評価や解析、分析を行います。仕事はチーム単位で行い、ひとつの装置を2、3人で担当しています。
プロセス開発は次世代半導体製造装置のプロセスを、アメリカ本社のエンジニアとお客様との間で、オンラインで打ち合わせを行いながら導入する仕事です。お客様の要望をもとに、次世代装置の性能や目標値をクリアする条件を開発していくわけですが、ほぼ毎日お客様との打ち合わせや技術評価に時間を費やすので、技術職と言っても手を動かすというよりも、技術コンサルの側面が強い仕事だと思います。
—— 一例でいいのですが、1日の仕事のスケジュールを教えてください。
例えばお客様とオンライン会議がある日は
- ・時差もあるので朝8時にアメリカのチームとプリミーティングを行う
- ・その後、お客様とミーティングを行い、開発における次のアクションを決める
- ・午後からは必要があればお客様の半導体製造工場のクリーンルームに入り、実験を行う
- ・その後オフィスに戻りデータ作成や資料をまとめて次の日の準備
といったスケジュールになります。
新規装置の開発における業務は、アメリカ本社に装置があるので現地のエンジニアが代わりに実験を行ないます。我々はそれのサポートとして実験条件を決め、お客様の要望を聞きながら実験条件の調整を行うなど、さまざまな角度から提案をしていきます。
——学生時代は半導体についての研究をされたのでしょうか?
化学工学専攻ですが、実は台湾の大学でも日本の大学院でも、半導体について研究していた訳ではありません。でも専攻にこだわらず幅広いことを学びたい気持ちがあり、半導体は私たちの日常のどこにでもあるものなので、ぜひやってみたいと思いました。ラムリサーチは半導体のことを専門に学んでいなくても、入社してから知識を身につけることができます。
お客様にプロセスを認めていただいたときが一番うれしい
——プロセス開発とプロセス改善、それぞれの面白さは?
プロセス開発は、今存在していない新しいプロセスをゼロから確立していくことになるので、それがとても面白いと思います。プロセス改善は、自分が改善したプロセスをお客様に採用してもらった時が一番やりがいを感じます。
これまでの仕事で印象的だったのは、時間削減のプロセス作りに成功したことですね。反応時間を削減しても既存のプロセスと同様の効果が得られるプロセスができたときは、お客様にとても喜んでいただきました。いろんな実験を重ねて、お客様の事業の役に立てるプロセス作りができたときは本当にうれしいです。
——逆に大変なことはありますか?
大変というかチャレンジングだなと思うのは、アメリカ本社とお客様との意見が異なるときですね。プロセス開発では日々お客様とアメリカ本社の社員とでミーティングを行っていますが、アメリカのチームとお客様の意見が全く違ってしまった時には、プロセス担当として両方が納得するような方向性を決める必要があり、その方向性を決める時が最もチャレンジングです。
例えば装置のパーツを例にあげると、アメリカのチームは装置開発者として一番性能のいいパーツを提案したいという思いがあるのは自然なことです。でもお客様はコスト面も重視されるので、既存の装置でもプロセス次第では高性能パーツを使わなくてもよいのではないか、とお考えの場合もあります。
日々打ち合わせを行って最終的なパーツなどを決めていくことになりますが、そこでプロセス担当として適切な助言を行い、方針を決定していくときに難しさとやりがいを感じます。
——お客様の一番近いところにいるプロセス担当が担う責任は大きいですね。
そうですね。納得してもらうには提案内容はもちろんですが、話し方もとても大切です。方針は基本的には上司と相談しながら決めていきますが、話し方については、先輩社員や上司がどのようにお客様やアメリカのチームと話すのかを間近で見ながら、日々説得力のある話し方を学んでいます。
——実践の中で学んだコツはありますか?
アメリカ本社との会議は英語で行いますが、外国の方はかなりはっきりしているので、私もきちんと意見を言うことを大事にしています。日本語のときとはかなり印象が違うと思います(笑)。お互いの意見を聞きながら、アメリカチームとお客様、どちらも納得できるような方針決定をしていくことを心がけています。
仕事を通じて語学力に磨きをかけられるのは外資系ならでは
——仕事では英語と日本語を使われていると思いますが、言語で苦労したことはありますか?
入社したばかりの時に、日本で新規装置の立ち上げを担当しました。その時はまだ仕事の経験があまりなく、日本語も今ほど理解できていなかったので、お客様の質問に対してうまく答えることができずに大変でした。質問された内容があまり理解できていなかったんです。日常会話は日本のアニメやドラマを見て学んできましたが、専門的な内容は入社してからでないとなかなか学ぶ機会がありません。現在は日本に来て5年目で、日本語もだいぶ上手くなったと思います。
また、台湾の大学では教科書は基本的に英語で書かれているので、専門的なことについては英語の方が理解しやすいですね。
——母国語のほかに、英語・日本語もビジネスレベルで使えるようになるまでには、ものすごい努力をたくさんされたのでしょうね!
エンジニアの中には、私のほかにも外国出身の社員がいますが、みなさん母国語のほかに英語、日本語ができます。初めは大変ですが、アメリカに本社があるということから、英語を使う機会がとても多く、仕事を通じて語学力をアップできる環境だと思います。
私は台湾の大学を卒業後、日本の大学院に留学し、就職も日本でしようと決めました。日本語と英語、自分が使えるどちらの言語も活かしたいという気持ちが強かったのです。ラムリサーチはその希望にぴったりでした。
日本にいながら、世界中の人たちと仕事ができる多様さが魅力
——語学力が鍛えられるほかに、ラムリサーチで働いてよかった点はありますか?
上司との壁がなく、みなさんが自由に発言できる環境がとてもいいと感じています。それに海外の多様な考え方や習慣に触れられるのもとても魅力的で、アメリカの チームの人たち以外にも、ソフトウェアならインドの担当者など、さまざまな国の人と日常的にオンライン会議を行います。国に関係なくグローバルなフィールドで仕事をしている感覚が常に感じられます。
——実際に海外に行って仕事をすることもありますか?
昨年はフリーモントに3ヵ月ほど滞在し、次世代装置のプロセス開発の業務を担当しました。今は海外に行くのが難しい状況なのですが、新型コロナウイルスの問題がないときは年に1、2回はアメリカに行っていました。担当業務によっては、中国や韓国、台湾に行き、サポートをすることもあります。
若いうちから任せてもらえるので、技術が身につくのも早いと感じますし、技術が難しい分面白さややりがいも感じます。
——今後のお仕事の展望や目標があれば教えてください!
Lam Researchが世界一のシェアを持っているエッチング装置の領域にとても興味があります。今担当している成膜装置は熱で反応させますが、エッチングの装置はプラズマを使うので、ぜひそこを学んでみたいと思っています。若いうちにより幅広く経験を積んで、技術を身に着けスペシャリストになるのが目標です。
半導体は微細化と積載化が進んでいて、求められる技術も今後はさらに高度になっていきます。それに合わせて装置ももっと複雑で性能の高いものが求められていくと思います。それにしっかり応えられる人材になりたいですね。
就活生へのメッセージ
——シンディさんの学生時代の勉強や経験で活きているものはありますか?
海外での生活や他国の人との交流です。夏休みに3ヵ月ほどアメリカへワーキングホリデーに行き、いろんな国の人と接することができました。なかでも日本人の友人ができて日本語に興味が湧いたし、海外を経験したことで、色々な国の人と仕事をすることも抵抗なくできていると思います。
台湾の大学は教科書が基本、英語で書かれていますが日本では違います。日本の学生は英語に慣れていないためか、英語で話すことを怖がる人が多いと思いました。実際には英語を話せる人も多いので、自信をもって積極的に英語でコミュニケーションをとってもいいのではないかと思います。
——半導体産業への就職を考える人に向け、アドバイスをお願いします!
半導体は直接目には触れることはないですが生活に欠かせないものです。その製造に役立つ装置に携わることは、世界に貢献できているなと実感があってとてもやりがいがあります。
ラムリサーチは基本的に入社時に半導体の経験が無くても入社後のトレーニングで知識を身につけることができる会社ですが、この分野を希望するなら、学生のうちに半導体について学んでおくと、より良いと思います。
<編集部より>
半導体技術は、サイズを小さくしながら処理容量の要求はギガからテラへと、とどまることを知りません。常に最先端技術に触れられる面白い業界です。電子関係以外にも化学や物理、機械工学などいろいろな分野の勉強が生かせるのも魅力です。そして視野を広く持ってキャリアを歩んでいるシンディさんにとても刺激を受けました!インターナショナルな環境や仕事の進め方に興味がある方は、外資系企業もぜひ積極的に調べてみてください!
Lam Researchは、アメリカのシリコンバレーに本社を置き、半導体の製造装置の製造、営業企画、顧客へのサービスを展開するグローバル企業。装置開発を行うアメリカ本社のほか、日本やヨーロッパ、アジアの主要都市に活動拠点を置いてLam製半導体製造装置の輸入から立ち上げ、カスタマーサポート、プロセスエンジニアリングを行っている。
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