みなさんは「きゅうりにハチミツをかけるとメロンの味になる」「プリンに醤油をかけるとウニの味になる」なんて話、聞いたことありませんか?
「その組み合わせでなんでこの味が?」という不思議な味の錯覚に、科学的な根拠はあるのでしょうか。おなじみの棚橋先生に聞いてみました!
今回ピックアップしたのは以下の4つです。
・きゅうり+ハチミツ=メロン
・プリン+醤油=ウニ
・トマト+砂糖=イチゴ
・アボカド+醤油=大トロ
きゅうり+ハチミツ=メロン
——最初は非常に有名なこの組み合わせからです。高価なイメージの強いメロンが、きゅうりとハチミツで再現できたらお得感はありますね。この錯覚、理屈としてはどんなことがいえそうでしょうか?
棚橋先生 まず注目したいのが、きゅうりもメロンも、ともにウリ科の植物だということです。
——なるほど。ウリ科の親戚どうし、あながち突飛な関係性でもないということですね。
棚橋先生 そうですね。きゅうりもメロンもウリ系の風味という点ではもともと共通していると思います。
両者の決定的な違いは、甘味です。きゅうりはあっさりした味で甘味も薄い(糖度にして5〜7%程度)ですが、メロンは糖度が高いものになると15%以上と、強い甘味が特徴です。
この甘味の差を埋めるのにハチミツが機能すると考えられます。ハチミツを足すことできゅうりに甘味が補われ、さらにハチミツの風味がきゅうり特有の青臭さを打ち消す効果も相まって、人によってはメロンに近い味に感じられるのだろうと思います。
——ところで先生はこのきゅうりにハチミツの組み合わせ、食べたことは…?
棚橋先生 ないですね…。個人的には完熟のジューシーなメロンが好みのため、きゅうりのシャキッとした食感を考えると、あまり試したいとも思わないです…笑。
もし試すなら、きゅうりの皮の食感や香りが「メロンっぽさ」を感じる邪魔になりそうなので、皮をむいたきゅうりで試すのがよいと思います。
プリン+醤油=ウニ
——こちらも比較的有名な組み合わせですが、ミスマッチ感はきゅうり+ハチミツ以上ですね。プリンにも醤油にも海産物の要素がないのに、なぜ「ウニ」の風味を感じてしまうのでしょうか?
棚橋先生 そもそもウニの味というのは、なかなかひとことでは表現できない独特の味ですよね。ウニにはアミノ酸が多く含まれており旨味が強いほか、甘味、塩味、苦味など様々な味覚要素が含まれます。
一方のプリン+醤油の組み合わせですが、プリンには甘味はもちろんのこと、カラメル部分に苦味が含まれますね。また、醤油は発酵食品で、塩味だけではなく、複雑に醸し出された旨味も有しています。
——味覚の要素としては噛み合いましたね。まるでパズルのようです。
棚橋先生 一見かけ離れた両者の組み合わせだからこそ、組み合わせることでウニの複雑な味が再現されたということなのだと思います。
ただ、海産物の要素が感じられるとしたらその理由は、成分の面からは正直言ってわかりません。まさに錯覚としかいいようがないと思います。
——ちなみに先生、この組み合わせは食べたことは…?
棚橋先生 実はこの組み合わせは、小学生の頃に試したことがあります。
——なんと! どうでしたか?
棚橋先生 個人的には、あまりウニだとは感じませんでした…。プリンや醤油の種類によってもだいぶ印象が変わると思うので、今再度チャレンジしたらおもしろいかもしれないとは思っています。
プリンのテクスチャーも、ウニらしさを感じる重要な要素になると思うので、試すなら滑らかなくちどけ感のあるものを使うほうがおすすめかもしれません。
トマト+砂糖=イチゴ
——トマトに塩ではなく砂糖をかけるというのは意外な組み合わせに感じますが…イチゴの味というなら、おいしそうではあります。
棚橋先生 トマトとイチゴには、ともに酸味と甘味があります。ただ糖度には大きく差があります。
最近では品種改良され糖度の高いトマトの品種も多数流通していますが、一般的なトマトの糖度は6%~8%程度のものが多く、イチゴの糖度は10%以上が主流で、高いものになると15%を超えるものもあります。
——読めてきました! きゅうり+ハチミツと同様に、糖度の差をチョイ足しで埋める理屈ですね。
棚橋先生 はい。トマトの糖度をあげることで、酸味はそのままに甘味とのバランスがイチゴに近いものになるのだと考えられます。
また、トマトもイチゴも水分が90%以上あり、この水分量からくるジューシーな食感も、似たように感じさせる要素のひとつと言えそうです。
くわえて、トマトもイチゴもどちらも赤色なので、視覚的に錯覚しやすいというのもあると思います。
——目隠しをして食べても果たしてイチゴのような味に感じるか…? 実験してみたらおもしろそうです!
アボカド+醤油=大トロ
——醤油を使ったレシピがもうひとつ。アボカドを醤油につけるだけで、まるで大トロのお刺身を食べているように錯覚できるという説です。
棚橋先生 アボカドは「森のバター」とも言われる、脂肪分を多く含む果実です。良質な不飽和脂肪酸を多く含みます。アボカドが大トロに感じられるという現象には、この脂肪分が大きく関与していると思われます。
アボカドに含まれる脂質は100g当たり18.7g、マグロの脂質は、脂身で100g当たり27.5g(本マグロの場合)とどちらも高脂質食品です。アボカドは、追熟させることにより、独特のねっとりした食感となりますが、この食感でいただくと、口どけ感はたしかに「大トロ」に近いと感じても不思議ではありません。
さらに醤油の香りと旨味によって、アボカドにしても大トロにしてもそれぞれの特有の風味がある程度打ち消されることから、残った食感の部分でより似た感覚のみが際立って感じられるのでしょう。
——極論「醤油をかけたらなんでも醤油の味」になっちゃいますもんね。
棚橋先生 かけすぎたら、そうですね。でも錯覚に関係なく、アボカド+醤油はシンプルにおいしい組み合わせだと思います。
私自身、「大トロを感じたくて」というわけではありませんが、アボカドにわさび醤油、さらに時には海苔をプラスしていただくのは大好きです。
まとめ
棚橋先生 今回取り上げた有名な錯覚レシピについては、使用する品種や分量のバランスまで研究し工夫することで、いずれも噂通りに似た味を感じさせることはできるように思います。
でも本当に微妙な調整具合でバランスが崩れてしまうこともあります。
どちらかというとこうした錯覚レシピを通じて、もともとの食材それぞれのおいしさや味の奥深さをあらためて認識できた気がしますね!
棚橋先生、ありがとうございました。
リケラボでは今後も料理や食材の素朴な疑問の答えを探求してまいります!
国際薬膳師、中医薬膳専門栄養士、日本野菜ソムリエ協会 野菜ソムリエ、日本ニュートリション協会公認 ビジネスサプリメントアドバイザー 。
管理栄養士養成施設非常勤講師。 栄養バランスを考慮したヘルシー料理を得意とし、企業の商品開発業務等にも携わる。中医学理論に基づいた薬膳料理の提案も得意とする。
facebookページ:管理栄養士棚橋伸子のすまいるきっちん
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(本記事は「リケラボ」掲載分を編集し転載したものです。オリジナル記事はこちら)
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