「えー、コーラって手作りできるの? 材料は何なの?」という声が聞こえてきそうですね。
子供のころから身近にあるのに実はよくわかっていないドリンク、「コーラ」。
じつは数年前に、手間暇かけて手作りされたクラフトコーラの専門メーカーが登場し、その美味しさのトリコになる人が続出しています。
メーカーを立ち上げたのは「コーラ小林」の愛称で親しまれる小林隆英さん。農学部出身。生き物が好きという理由だけで農学部に入り、本当にやりたいことが何かわからなかった学部生時代を経て、院進学、企業へ就職し働きながらコーラづくりに目覚めたといいます。
リケラボ編集部としては、とても気になる存在!
早速、小林さんに手作りコーラの魅力、さらにコーラづくりという天職に出会えた秘訣などを聞いてみました!
まずは試飲。クラフトコーラってどんな味?
世界初のクラフトコーラ専門メーカーとして2018年に誕生した「伊良コーラ(いよしコーラ)」は、100年前のレシピを基にしたコーラを手作りしています。
オンラインストアで「魔法のシロップ」を購入(伊良コーラは下落合にあるお店や、週末に青山に出店される移動販売車でも飲むことができます)。こちらを炭酸水で割れば、おうちでもクラフトコーラを楽しめます! ほんとはお店に行きたかったけど……コロナが……。(取材は2020年6月上旬)
いままで飲んできたコーラよりも、淡くてやさしい色合いです。
つぶつぶとしたスパイスも見えます。
飲んでみると……
口に入れた瞬間にシナモンなどのスパイスの香りがふわっと広がって、しっかりとした、でもしつこすぎない爽やかな甘さと、ほんのりキュンとくる酸味。こんなドリンクは初めて! という驚きとともに、「これはコーラだ」という安心感と、どこかなつかしさも覚えるような……。
炭酸のシュワシュワがはじけるごとに次から次へと奥深い香りが現れるようで、様々なおいしさが絶妙なバランスで何重にも折り重なったような味わいです。スパイスの細かなつぶつぶも感じられて、飲んでいる途中でちょっぴり咀嚼したくなる舌触りがお口の中を飽きさせてくれません。飲み込んだあとは、ショウガのピリッとした後味がほのかに残って爽快!
確かに忘れられなくなる美味しさです。人気があるというのもナットクです。
コーラ職人が語る、コーラに秘められたロマンとは?
オンライン越しの小林さんの第一印象は、さわやかで頭の回転が速く、洗練された好青年。年も近くて、まるで大学の同級生がコーラ屋を開店したような、そんな親近感があります。
──コーラを好きになったのはどうしてだったのですか?
コーラをよく飲むようになったのは、大学生のころでした。もともと偏頭痛持ちで、カフェインをとるといいというのを知って飲んでいたのですが、当時は純粋に、飲み物としておいしいな、と思っていて、まだどんな魅力を感じていたかは、言語化できてなかったですね。今おもえば、コーラに秘められたロマンみたいなものに惹かれていたんじゃないかと。
──ロマン、気になりますねー。
コーラは、当初は薬剤師が開発した薬効的な飲み物だったんです。いつのまにかジャンクな飲み物の代名詞のようになっていますよね。そうやって、意味や役割がまったく逆になったことの面白さというか……。それと、僕は大学時代に海外インターンでフィリピンに行ったことがあって、そこで山奥でもコーラの赤いトラックが走っているのを見かけたんです。どんな国、場所でも、水のように当たり前に飲まれているのに、誰もコーラが何からできているのか知ろうとしてない。その現象に面白さを感じました。
それと、これはコーラを作るようになってから知ったことなんですが、「コーラ」の語源になっているコーラの実が栽培されているガーナでは、コーラの実は神様からの贈り物というか、すごく大事なものとされているんです。だから、そのコーラを使った飲み物は特別な存在だし、「コーラ」というワードそのものが、国を問わずすごく力を秘めていると思っています。
手作りコーラのきっかけは偶然、完成は必然
──コーラを手作りするようになったのはいつごろですか?
作るようになったのは、社会人になって1年目のときですね。ネットでたまたまレシピを見つけて、身近なスパイスで作れるということで、面白そうだから作ってみようと思いました。そこそこおいしいものはできたんですが、追究したらもっといいものができるんじゃないかとハマってしまって、コーラを作るのが日課になっていきました。仕事から帰ってきて、夜な夜なコーラを作って……。負けず嫌いなのもあって、もっと感動するような味のものをつくりたい、このままじゃ終われない、とのめりこんでいきました。
──納得できる味を実現するまでに、どれくらいかかりましたか?
3年です。スパイスの配合や工程を何度も試しました。コーラ作りを始めて2年半ほど経った頃、漢方職人だった祖父が亡くなって。工房に遺された資料があったんです。これはもしかしたらコーラにも活かせるかもしれない、とひらめきました。漢方の調合技術を参考にしながら火入れや工程にさらなる工夫をしてみたところ、格段に良いものができるようになったんです。最終的に納得いく味のものが仕上がった時は、「これはすごいことが起きそうだ」という直感がありました。もともとコーラは薬効のある飲み物、とされていただけに、祖父が漢方職人だったというルーツとのつながりも感じました。
小林さんの祖父である伊東良太郎さんの若かりし頃の1枚。現在の伊良コーラの工房は良太郎さんの工房「伊良葯工(いよしやっこう)」の跡地に建てられている。
──それでも会社を辞めてコーラ作りに専念しようとしたのはすごい決断ですね。
純粋に、ここまで作り上げてきたコーラをたくさんの人に飲んでもらいたいと思ったのと、「これは自分にしかできないことかもしれない」と感じたからです。よく、会社をやめるのに不安はなかったかと聞かれますが、特に不安はなくて。ずっと仕事と並行してコーラを作ってきたので、自然と軸足が移っていたというか。とにかくやってみよう、という思いが強かったですね。
やりたいことがわからなかった農学部時代。やってみて違ったと思うことも。
──小林さんは農学部出身とのことですが、理系の道へ進もうと思ったきっかけは何だったのですか?
幼いころから生き物が好きだったからです。僕は新宿区出身なのですが、都会の真ん中の割には近くに自然豊かな公園があって、虫とりをしたり、ザリガニ釣りをしたりして遊ぶのに夢中でした。進路を決める時点では漠然と「生き物の勉強がしたい、野山に出て楽しいことをしたい」と思ったので、北海道大学の農学部へ進学しました。
──大学ではどんな研究をされたのですか?
大学には入れたものの、自分がやりたいことが具体的に何なのかまではやっぱりわからなくて、1、2年生のときは遊んでしまいました……笑。なんとなくフィールドワークをやりたいなと思っていたのですが、研究室配属はなんと苦手意識のあった応用生命科学科の分子生物学の研究室でした。苦手なりに頑張ってなんとか卒業はできましたが、「せっかく北海道まで来たのに、何もできていない」と、危機感を覚えました。そこで初めて、いろいろな先輩や教授に話を聞きにいったんです。それでようやく海の生態系に関する研究をやりたいと気がつくことができ、大学院では自分がやりたい研究ができました。
──なんだかすごく親近感の沸く話ですね……。
大変な学部生時代ではあったけど、いいこともありましたよ。東京を外から見られたことです。東京は人間が生物であることを忘れる街、ゲームの中に存在する街だなと思いました。北海道では自然を感じることができます。季節で匂いが違う。夏の夜は街中でも森の匂いがする。音も変わりますよね。雪がシンシンと積もる音とか。自然への畏怖ということを思い出させてくれました。
──学生時代に海外インターンも経験されているんですよね? 行ってみていかがでしたか?
学部時代にフィリピンでインターンに参加しました。FAO(国際連合食料農業機関)など国際公務員の道にも興味があったので。参加前の準備としてニューヨークへの語学留学も経験しました。でも、結果的に自分の場合は将来そうやって働く姿をイメージできなかったというか、自分には向いていないな、と気がついて、それはそれで良い経験になったと思っています。
得意なことを仕事にすれば、それが好きな仕事になる
──広告代理店に入社されたのは、どんな理由や思いがあったのですか?
資本主義のシステムのすごさというかビジネスに興味がわいたんです。いいサービスを提供すれば、その成果に応じたお金が入ってくるという、ある意味自然の原則に則ったシステムだなと感じました。
さらに、僕は人をわくわくさせたり、びっくりさせたり、いろいろな問題解決をしていくことが好きだったので、自分のアイディアを活かせるのは広告代理店だなと。コーラづくりに出会ってからはさらに毎日が楽しいです。これまでのいろいろな経験が、すべて点が線につながってきている感覚がありますね。
──学部時代は何をすればいいのかわからなかったのに、色々な経験を経たことですべてが活きる天職を見つけたということなんですね! 進路や職業選択に悩んでいる人にぜひ何かアドバイスをお願いします!
“得意なこと”を、ぜったいに仕事に活かすべきだと思います。好きなことを仕事にしたいとか、好きなことは仕事にしないほうがいいとか、よく話題になりますが、仕事は好き嫌いよりも、人と比べて得意か不得意かを考慮して選ぶのがいいと思いますね。そのほうが社会の利益になります。
たとえば、ゴールキーパーの才能を持つ人がいて、すべてのボールをとめられるくらい上手だったとします。でも、本人はゴールを決めるほうが好きで、キーパーをやらずにフォワードばかりやっていたら、チーム全体としてはプラスにはなりません。
全員が強みを武器にしてチームを作るほうが絶対にいいと思うんです。それは社会と似ていると思います。それに、得意なことをやっていけばほめられることも増えて、自然“好き”になっていくはずなんですよね。
突出した才能がなくても、「人よりもちょっと得意なこと」をブレンドすると唯一無二のスキルになる
──そうはいっても、自分には胸を張って「得意」といえるものがない、と思っている人も多そうですよね。
まだきちんと言語化できていないのですが、才能を生かすってコーラに似ているんじゃないかなと思っています。
──どういうことですか?
たとえば小さなころからサッカーや歌、絵、などがものすごくうまければ、その才能を突き詰めればプロになれる可能性がありますよね。これは、飲み物でいうと「オレンジジュース」だと思っていて。ものすごくおいしいオレンジを使ってその味を引き出せたら、超一流のオレンジジュースができあがるのと同じように、ある種シンプルに、目指す道が見える例です。
一方で、僕の場合もそうなんですが、大多数の普通の人はこれといって明確に突出した才能があるわけではないですよね。でも、少しずつ何かしら得意なことをもっている。僕自身大人になるにつれてわかった能力っていうのが、人よりも少しだけ行動力があることだったり、物の見せ方など、クリエイティブな領域で力を発揮しやすかったことだったり。そんな小さな得意の掛け合わせが、今の仕事に全て活きています。
──確かに伊良コーラのパッケージやグッズはとてもお洒落です!
コーラは何からできているか一見よくわからないけれど、いろいろな素材と製法が調和してできた世界中の人を魅了してきた飲み物。人も同じで、いくつかの小さな得意と経験がうまく組み合わさりブレンドされることによって、その人にしかないオリジナルな能力となるのかなと思います。
──コーラ職人さんらしい例えで、ものすごくわかりやすく勇気づけられる話をありがとうございます。とはいえ、できるだけ早く得意に気付きたいところですが、、、自分の得意を早く見つけるにはどうしたらいいんでしょう?
やっぱり行動することが一番なんじゃないかと思います。今大事にしていることは、「アタマより手を動かす、手より足を動かす」。考えているだけじゃホントのところはわかりませんよね。調べたり、ノートに考えをまとめたり、は手を動かすこと。さらに重要なのは足を動かして実際に現地に行ってみたりすることだと思います。なかでも人に会って話を聞くというのはとても大切で、もし今学生時代の自分にアドバイスをするなら、「迷ったらとにかくその道と関係性のある10人以上の人にアドバイスを求めろ!」と言いますね。
──人生も研究も悩んでないで実験して検証することが大事!と理解しました!
最後に今後の意気込みを教えてください!
僕は伊良コーラを「コカ・コーラ」「ペプシコーラ」と肩を並べるブランドにしていきたいと思っているんです。今は、そこに向かっていろいろな施策をうって、少しでも事業の規模が大きくなっていくことにやりがいを感じています。伊良コーラでは、常識を壊すことをテーマにしています。シンプルに飲み物としておいしいのはもちろん、「コーラって作れるんだ」という驚きや感動を味わってもらいたいな、と。伊良コーラを通じて、世界観がひっくり返るような体験をしてもらえたらうれしいです。
驚きの体験、小林さんのクラフトコーラをぜひみなさんも飲んでみてください!
■伊良コーラ Webサイト
http://iyoshicola.com/
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