イラスト:桜井葉子
突き止めたアジトで最強の敵が登場! 街の平和を守るため、今日も科学戦士は立ち上がる!
キックするなら、スニーカーよりピンヒール!?
私は、ミギネジ。
昼はエンジニアとして働き、夜は誰に言われるでもなく科学戦士をやっている。
「おりゃー!おりゃー!」
前回の必殺技「お酢アタック」のお酢がうっかりかかってしまったことから
ミギネジの助手になることになったヒーローらしき男性「博夫(ひろお)」。
今日も誰に言われるでもなく、率先して送り込まれてくる敵と戦っている。
「ダメです、ミギネジさん。キックが全然効きません……」
「そういうときは、私に任せて!行け~、ピンヒールキック!」
そう、ピンヒールのあの小さな面積に全体重がかかることで、
底が平らなスニーカ―よりも相手にかかる圧力が高くなるのだ。
「底が平らなスニーカーで安易に挑んだのが間違いでした。
たしかに、電車が揺れたときとかにピンヒールで踏まれると痛いっす」
敵のアジト、ついに突き止めた!
「どうしたらミギネジさんのように強くなれるんですか?」
「そんなこと言われてもねー。特にコツとかないから……。助手を持つとも思っていなか
ったし」
「そうですか、まだ教えてくれないんですね。まあ、いいです。
ところで、これまで送り込まれてきた敵の居場所、そう、アジトがわかったんですよ!アイツが吐きました」
「アイツって……!?」
そう、博夫は第3話の怪人「ダイラタンシー」にあっけなくやられる前に、
第2話の「びよーん星人」の天然ゴムの残骸を見せつけて脅し、敵の情報を吐かせていたのだ。
「相手のアジトがわかったのはいいけど……、人の家の風呂場で何しているの!!!」
ミギネジは思わず叫んでしまった。
ミギネジと博夫は、ダイラタンシーに吐かせた情報をもとに
敵の基地らしき場所に向かった。
「本当にここであっているの?」
「はい、ここのはずです!」
「だって、こんな建物見たことないよ……。
建物が全部真っ赤に塗られているし、気味が悪すぎる」
「建物の外観なんて関係ないですよ、ミギネジさん。
とりあえず中に入ってみましょうよ」
姿が見えない敵「ポンポン星人」登場!
気味の悪い建物の中を進んでいくと、なにやら声が聞こえてきた。
「はっはっはー。ようこそポン。
私はここの施設の切り札だポン。
これまで博士がいろいろな物質を送り込んだけれど、
そんな100円ショップで買えるような安い材料とは比較にならないぐらい、私は強いポン」
余計なお世話だが、たしかに、前回までの敵に対しては、
材料費が明らかに安いことを心配していた。
しかし、今回は敵らしき姿が目には見えないし、
どこにいるかもよくわからない……!
かなり手ごわい相手になりそうだ。
「それより、ポンポンうるさいな! このポンポン星人め!」
ミギネジの中で闘争心がふつふつと湧き出ていた。
告白!ミギネジが強い理由
「私のことは君たちの目に見えないだろう!今のうちに攻撃してやる!」
しかし、ポンポン星人は攻撃するときに感じ取っていた。
ミギネジが語尾の「ポン」に妙な感情を抱いていること、
そして、自分の正体が暴かれ、やられる怖さを……。
「これまでの戦いからも強いのがよくわかるポン。
君はどのようにしてそんな力を手に入れてここまで来れたのだポン?」
「あなたも、その秘密を知りたいのね!いいわ、博夫も良く聞いておいて」
「この場でやっと、ミギネジさんの強さの秘訣を教えてもらえるのか!」
博夫は歓喜に沸いた。
「自分を裏切らないことよ!
毎日自分が『こうしたい』と思ったことを、
人目を気にせずにやっていけばいいの。
私はやりたいと思った実験を試してきたけど、
気づいたら、人の目を気にせず自分の髪にネジを刺して歩けるまでに成長していた。
そして強くなっていたの!」
「髪にネジを刺すということですか!?
僕はそんなことを知るために、ミギネジさんに付いて来たのではありません!」
ついに突き止めたポンポン星人の正体
「おやおや、さっそく仲間割れポン?
最強の私が、二人まとめてやっつけちゃうポン」
ポンポン星人は二人に襲い掛かろうとしているみたいだが、
ミギネジにも博夫にも、全く見えていない。
「ミギネジさん、どうすれば!?」
博夫は敵が見えないので、攻撃のしようがない。
しかし、ミギネジはこれまでの情報から考え、
おもむろにマッチに火をつけ天井に向かって投げた!
「えいっ!」
「………ポンッ」
「やっぱり……! 姿を現したわね。ポンポン星人!」
そう、敵は天井近くの上のほうで反応したので、
空気よりも軽い気体。
そして、さっきから語尾がポンポンうるさいが、
火をつけたら、案の定「ポンッ」と言ってしまった。
「あっ!」
きっとヤツの正体は、
無色無臭の軽い気体で火を近づけると「ポンッ」という、H(水素)!!!
「この基地の外観を赤色にしていたのが間違いだったわね!」
ミギネジは、建物が水素ボンベの色と激似であることも
決して忘れていなかったのだ。
酸素を注入して、必殺技「爆鳴気」!
ミギネジと博夫はジャンプし、
協力して天井付近の水素を袋に閉じ込めた。
そう、袋の中で水素2に対して酸素1の混合気体をつくり点火すると、
爆音と大量の熱を発して爆発するのだ!
「でも、このままだと酸素の割合が足りない……」
「ミギネジさん……、これでよければ!」
博夫は日々の戦いでよく息が切れてしまうので、酸素ボンベを所持していたのだ。
「博夫ありがとう!よーし! 前から思ってたけど、この際言わせてもらうわ!」
「テストで『火を近づけると“ポンッ”ってなります』って、いちいち書かせないでくれー!
かわいくて、テスト中にニコってなっちゃうじゃないかああああ!」
「行け~、酸素!」
プシューーー。
ミギネジは、水素を閉じ込めた袋の中に酸素を、
水素:酸素=2:1の割合の混合気体になるように注入した。
そして、最後に点火。
バーーーーーーン!!!!!!
ポンポン星人は、酸素とともに大爆発した。
ポンポン星人に感謝!?
「酸素、助かったわ、ありがとう。これでも飲んで一息つこう」
ミギネジは、博夫に水を手渡した。
ゴクゴクゴク。
「生き返るー。でもこの水、どこで手に入れたんですか?」
「さっきのポンポン星人よ」
「えっ?」
「水素(H)2と酸素(O)1でH2O(水)でしょ。
さっきの爆発で水素と酸素が結合して水になったのよ」
「なるほど!H2Oってよく聞くけど、そういうことだったんですね!
僕たち人間の命の水は、ポンポン星人が元にになっている……。いつもありがとう、ポンポン星人!」
こうして、平和は守られた。
今回のミギネジ必殺技
必殺技名:「爆鳴気」
分野:化学
費用:★★☆、手間度:★★☆、危険度:★★☆
ミギネジの予備実験室
《準備するもの》
◎実験用水素ガス
◎実験用酸素ガス
※水素ガスと酸素ガスは、東急ハンズなどの理科学用品売り場やネットにてお求めいただけます。
◎太いビニールチューブ(今回は3m分使用)
◎細いビニールチューブ(今回は30cm分使用)
※ビニールチューブは東急ハンズのDYIコーナーなどでお求めいただけます。
◎チャッカマン
※今回は100円ショップに売っている、チャッカマンの中に長い導線が入っているものを使用しました。
◎点火プラグ
※ホームセンターの自動車部品売り場やネットなどでお求めいただけます。今回は、NGKの点火プラグを使用しました。
◎ビニル袋
◎セロテープ
◎ティッシュ
《ガスを混ぜる袋の作り方》
水素ガスと酸素ガスを混ぜるための袋をつくります。
ビニル袋の口のところに細いチューブを差し込み、空気が漏れないようにセロテープでしっかりととめます。
《点火装置の作り方》
チャッカマンの蓋を開け液体ガス部分だけを取り除き、導線をチャッカマンの外に伸ばした状態で蓋をします。
そして、チャッカマンの導線と点火プラグを写真のようにワニ口クリップでつなぎます。
“カチッ”とチャッカマンのスイッチを入れるたびに、点火プラグの先に火花が出ていることを確認してください。
《実験手順》
(1)先ほどつくった袋に水素ガスと酸素ガスを入れていきます。
まず、袋の中に入っている空気をすべて抜いておきます。そして、袋の3分の1までチューブから酸素ガスを入れ、袋の3分の2にチューブから水素ガスを入れます。
両方のガスが入ったら、ビニル袋を上下左右に動かし水素と酸素がよく混ざるようにします。
(2)袋の中で酸素ガスと水素ガスを混ぜただけでは、まだ水は出来ません。ここから水素ガ
スと酸素ガスが反応するための準備をしていきます。
(1)で混ぜたものを細いチューブから押し出し、太いチューブの片側からゆっくりと流し入れていきます。
ビニル袋の半分くらいまで入ったら、太いチューブの逆側にティッシュで軽く栓をします。
(3)ティッシュで栓をした太いチューブの逆側(水素と酸素を流し込んでいた方)に、点火プラグを差し込みます。
(4)太いチューブに点火プラグを差し込んだままチャッカマンのスイッチをONにすると、「バン」と太いチューブの中で大きな音と光を出しながら反応します。
(5)反応が終わったあと、透明だった太いチューブが曇っていることを確認します。曇っているのは水蒸気で、水ができたことを確認することができます。
ぜひみなさんも今回のミギネジ必殺技を試してみてくださいね。
▼実験の様子は動画でもご覧いただけます。(ミキラボ・キッズ)
▼注意事項
・小学生など低年齢の子どもが実験するときは、必ず保護者の指導のもとで実施してください。
・点火するときは太いチューブを握らないように注意してください。握ったところにエネルギーが集中して危ないです。
チューブを持って実験する場合は、手のひらに乗せるだけなどにしてください。
・点火すると大きな音と光がでるので、苦手な方は耳栓などをして注意して実験してください。
・点火すると栓のティッシュが吹き飛びますので、注意してください。
五十嵐美樹(いがらし・みき)
科学のお姉さん。1992年東京都生まれ。
東京大学大学院修士課程及び東京大学大学院科学技術インタープリター養成プログラム修了。
幼いころに虹の実験を見て感動し、科学に興味を持つ。学部在学時に「ミス理系コンテスト」でグランプリを獲得後、「老若男女問わず科学の楽しさを伝えるミス理系女子」として、子どもから大人まで幅広い層に向けた実験教室やサイエンスショーを全国各地で主催、講師を務める。
特技のヒップホップダンスで魅せる「踊るサイエンスショー」は好評を博している。