実験器具の拭き取りに欠かせない存在として、長年愛されている「キムワイプ」。吸収性の高さや毛羽立ちにくさなど使い心地の良さはさることながら、あの絶妙なサイズ感やザラザラした触り心地、そして緑色のカーブが描かれたパッケージに、無性に愛着を持っている方も少なくないのでは?

そんな「キムワイプ」の魅力に迫るべく、製造元の日本製紙クレシアに突撃! お出迎えをしてくれたのは、なんと……キムワイプさんご本人!? 今回はキムワイプさんに、「キムワイプ」の意外と知らなかったお話をいろいろうかがいました!

日本で販売されて50年が経過

──今では研究に携わる人たちの間で当たり前の存在となっているキムワイプですが、いつ・どんなふうに誕生したのですか?

当社の技術提携先であるアメリカのキンバリー・クラーク社が、第二次世界大戦中に光学レンズの拭き取り用に開発したのが始まりです。「キムワイプ」の製品名は、「キンバリー(Kimberly)」の“kim”と、「拭く」という意味の“wipe”を合わせて名付けられています。

──日本で発売したのはいつごろだったのでしょうか?

1969年です。当社(日本製紙クレシア)とキンバリー・クラーク社との提携により日本でもキムワイプが販売されるようになりました。日本では当初から実験器具の拭き取り用製品として展開され、今では産業用ワイパーとして定着し、多くの研究室や工場、病院などでご使用いただいています。

キムワイプの製造元である日本製紙クレシア

キンバリー・クラーク社はグローバルに拠点を持っているので、キムワイプそのものは世界で広く販売されています。ですが、国ごとに少しずつ違いがあるんですよ。

研究者目線で考える製品づくり

──キムワイプといえば、ザラザラとした触り心地が特徴的です。あの質感には何か理由があるのですか?

キムワイプ独特のザラザラした質感は、独自の「クレープ加工」によって細かいシワをつけることで生まれています。これは日本のキムワイプ独自の製法です。

このシワには、紙をふんわりとさせたり、吸収したものをシワの間に閉じ込めて逃しにくくし、拭き取りやすくしたりする役割があります。

──もうひとつの大きな特徴である「毛羽立ちにくさ」は、どうやって実現しているのですか?

くわしくはお伝えできないのですが、基本的には素材の特性を利用しています。紙が木でできていることはみなさんご存じかと思いますが、木のなかでも、広葉樹由来の繊維は比較的短いのに対して、針葉樹由来の繊維は、長く、発塵しにくい特長があります。

一般的なティッシュペーパーなどのやわらかい紙には広葉樹の繊維が使われることが多く、キムワイプの場合は針葉樹の繊維を多めに使うことで、発塵しにくい紙となっています。

──ちなみに、あの絶妙なサイズ感になったのはどうしてなのでしょうか?

定番サイズの「S-200」のことですね。これは、実験室で作業の邪魔にならずコンパクトにお使いいただけるように立方体に近いパッケージになっています。

キムワイプ「S-200」

他にもティッシュほどの大きさの「M-150」や、さらに大きな「L-100」、小さめの「S-200 mini」など、サイズのバリエーションがあります。

広い範囲を拭きたいときや、実験器具の水切りとして敷きたいときは「M-150」や「L-100」、細かい部分をちょっとだけ拭きたいというときには「S-200 mini」というように、用途に応じて使い分けていただけるようになっていますが、やはり一番人気はずっと「S-200」ですね。

──ホームページを見たら、「キムワイプ S-250 リントガード」という製品もラインアップに加わっているのを目にしました。これはどんな違いがあるのでしょうか?

「キムワイプ S-250 リントガード」は、リント(=塵)の発生を防ぐことに特化した製品です。通常のキムワイプと紙質が違っていて、ザラザラ感がありません。

キムワイプを愛用されている方は、おそらくこれを触っても「キムワイプじゃない」とおっしゃるのではないかと思います(笑)。

──日本でも使われるようになって昨年で50周年を迎えたキムワイプですが、テクノロジーの変化などに伴い、何か進化を遂げているポイントはあったりするのでしょうか?

中身のシートに関しては、50年間変わっていません。

というのも、何かが変わると実験の結果に影響が出てしまう可能性がゼロではないため、紙の品質については「変わらない」ということが価値になっている面もあるからです。

ですが、使いやすさの面では2017年にいくつかリニューアルしました。取り出し口を少し広げてシートをスムーズに出せるようにしたり、箱にミシン目を入れることで捨てるときに畳みやすくしたりしています。ちなみに、取り出し口が広くなったことでシートが箱にこすれにくくなり、発塵もより少なくなりました。

広くなった取り出し口

側面と底に付けられたミシン目。使い切ったあと箱を開きやすくなった。

親指が入る切り込みがつくられ、より開けやすくなったという進化も。

現在(2019年時)は、50周年を記念した特別デザインパッケージの商品を発売中です。

「足と質」がキムワイプを普及させた

──キムワイプのない実験室はないといっても過言ではありませんが、誕生以来、ここまで世の中に浸透するまでの経緯はどのような感じだったのでしょうか?

現場の営業担当者が全国の研究室をくまなく回ったことが大きいのだと思います。

そして、実際に使っていただいて、吸収性の良さや発塵の少なさ、実験で使うことへの安心感など、品質的な評価をいただけている結果だと思います。

キムワイプが誕生したのは1969年で、ティッシュペーパーが生まれたのは1964年。日本で初めてティッシュを発売したのもキムワイプと同じ当社なんです。

今ではほとんどのご家庭で当たり前のようにティッシュが使われているかと思いますが、誕生時期はキムワイプとそれほど変わりません。そう考えると、世の中にティッシュが広まったのと同じように、キムワイプも実験の現場で当たり前のようにお使いいただけるようになったのかもしれません。

「キムワイプに見える」が反響

それから、嬉しいことにパッケージの色や形にもすごく愛着を持ってくださる方が多いというのも、たくさんの方に使い続けていただいているひとつの理由になっているのではと思っています。

──たしかに、ラボ以外で、たとえばホームセンターなどでキムワイプが売られているのを見かけると、嬉しくてテンションが上がります! それに緑色・黄緑色のラインを見るとついキムワイプを連想してしまいます。

SNSでも、「電車がキムワイプカラーに見えた」など、色のイメージに関する投稿を非常に多くしていただいています。そういう意味では、この色合いが研究者のみなさんの心を癒やしているのでは……という説もあります(笑)。

「実験室にいると白や黒のものに囲まれるので、そこにキムワイプの緑があると印象に残るし、癒やされる」というような声をいただくことも多いんです。

──ちなみに、あの色合いとデザインになったのはどうしてだったのですか?

発売当初から緑色は使われていて、途中で現在のデザインに変わったのですが……いつから今のデザインになったのかについては実は記録が残っていないんです。でも、おそらく30年以上は今のデザインが使われているかと思います。

弧を描いているデザインは拭くときの動きをイメージしていて、ほかのワイパー製品にも同じようにカーブを描いたデザインがよく用いられています。

人々に愛されるキムワイプを目指して

──SNSやブログなどで積極的にプロモーションを展開していらっしゃいますよね。でも一方で、これだけ普及していたらもう宣伝の必要はないのでは? とも思ってしまいます。

発売以来50年、おかげさまで、キムワイプは本当に多くのファンの方にご愛用頂いています。その感謝の気持ちをお伝えしたいということが大きいですね。同時に、「この先の50年も今と変わらず使い続けていただきたい、いつまでも愛され欠かすことのできない存在でありたい」との想いを込めて、いろいろな発信やコミュニケーションをさせていただいています。

SNSでキムワイプについてたくさんの投稿をいただいているのも、とてもありがたく嬉しく感じています。中には本来の用途とは違った使い方をされている投稿もあるので、メーカーとしてはコメントできないことも多いのですが……(笑)。投稿のひとつひとつに皆様からの愛を感じて、いつも感動しています。

キムワイプは、これからもこの先も、研究を頑張っている皆様をいつもそばで応援していきたいと思っています。キャンペーンの景品を、研究室で使えるものや長く身近で役に立てそうなものにしているのもそのためです。

──今後の展望があれば教えてください!

当社は、キムワイプのほかにも時代の変化に対応しながらさまざまなワイパー製品を作ってきました。ですが、やはり品質や作業性、使い勝手の良さなどさまざまな面を考慮しても、研究室でベストマッチするのはキムワイプだと思っていますし、多くの方にそう思っていただけているのではないかと感じています。

先ほどもお話したように、シートに関しては“変わらない”ことも価値のひとつになっているため今後も大きな変更はないかもしれませんが、一方で“より良いキムワイプ”を追求していかなければならないとも思っています。

使いやすさなど、紙質も含めて、これからもお客さまが本当に求めるキムワイプを追求していきたいと考えています。

(本記事は「リケラボ」掲載分を編集し転載したものです。オリジナル記事はこちら

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