就活などで理系積極採用企業のホームページを見ていると、SDGsへの取り組みについて記載されていることが多いですよね。また、ピコ太郎さんがPR動画を作ったこともあり、「何だろう?」と気になっている人も多いのではないでしょうか?
SDGsは、自分の技術を世の中の役に立てたいと考えている理系の人にこそ知っておいてほしい、世界中で取り組んでいる活動です。この記事ではSDGsとは何か、どのように理系のキャリアに関わってくるのか、ご紹介していきます。
SDGsの達成には、理系技術が欠かせない!
SDGsとは、「持続可能な開発目標」(Sustainable Development Goals)の略称で、“エスディージーズ”と読みます。
世界には、貧困や飢餓、健康、教育、環境といった取り組むべき課題が沢山ありますよね。それらを17の分野に整理し、解決すべき目標として制定したものがSDGsです。
“誰一人取り残されることのない世界”の実現を目指して、2015年の国連サミットで採択されました。特徴的なのは、それぞれの問題を個別に考えるのではなく、相互作用によって起きているととらえ、環境や社会、経済を統合的に考えて取り組んでいく点です。2030年までに目標の達成を目指しています。
“国連によって採択されたもの”と聞くと、自分とは関係のない遠い国々での話だとイメージしてしまう人も多いかと思いますが、SDGsは先進国も途上国も、政府もNPOも民間も、みんなが取り組むべきものと位置づけられています。
日本でも、新聞やネット、各企業HPで目にする機会が増えているように、日本政府はもちろん、さまざまな企業や団体でSDGsの達成に向けた取り組みが始まっています。つまり、日本で暮らす私たちのライフスタイルや、これからの働き方に大きく関わり始めているのです。
ところで、SDGsの達成には、科学技術が欠かせません。世界の問題を解決するための新しいモノや仕組みを生み出すためには、さまざまなテクノロジーや新たな科学的知見が必要不可欠だからです。
たとえば、SDGsの目標のひとつに「安全な水とトイレを世界中に(目標6)」というものがありますが、どんなに素晴らしいアイディアがあっても、それを実現する技術がなければ、絵に描いた餅で終わってしまいますよね。
そのほかにも、「エネルギーをみんなに、そしてクリーンに(目標7)」や、「海の豊かさを守ろう(目標13)」といった目標が並びます。この記事を読んでくださっているみなさんの技術や研究が、地球の将来を担っているといっても過言ではないことが伝わりますでしょうか?
今回リケラボでは、SDGsと理系キャリアの関係性について、より具体的にみなさんにお伝えするため、理系のキャリア支援に長年携わられており、SDGsに関する数々のワークショップでファシリテーターとしても活躍されている矢部純代さん(株式会社エンパブリック)にお話を伺ってきました!
理系技術をSDGsに紐付けて、キャリアに活かす
──まず、SDGsは私たちの仕事にどのように関わってくるのでしょうか?
自動車業界を例にあげると、フランスでは2040年までにガソリン車とディーゼル車の国内販売が禁止されることになったり、インドでも2030年までに100%電気自動車にする政策が打ち出されていたり、ボルボが2019年以降に発売する車種をすべてEV車やハイブリット車にすることを決めたりしています。
このように、世界中の国や企業でSDGs達成に向けた取り組みが始まっています。つまり、SDGsを理解することは、この先のビジネスの動向を見極めることにつながります。
また、SDGsに取り組むことで、ブランド価値が向上し、材料調達の面でも安定的な経営が実現できますし、そしてなによりも、途上国を含めてみんなで豊かになればマーケットが広がりますよね。
つまり、SDGsは、面倒なものではなく、ビジネスチャンスとして使いこなすものなのです。
──研究開発の仕事もSDGsに紐付けて考えることはできますか?
もちろんです。世界中が抱える問題を解決していくうえで、研究によって生まれた技術は必要不可欠です。
たとえば、電気が通っていない地域にソーラーランタンを届けている企業の取り組みに当てはめて考えてみましょう。ソーラーランタンそのものは、簡単に言ってしまえば“太陽のエネルギーを電気に変換する”という技術によって生まれたものです。これを、電気が通っていない地域に届けることは、たくさんの問題解決に役立ちます。
まずは、日が暮れてからも子どもたちが勉強をできるようになるという、教育への貢献(目標4)。さらに、夜道を歩くときの安全性が高まったり(目標11)、それによって、女性が襲われてしまう危険性も減ったり(目標5)……。
SDGsに当てはめてみると、ひとつの技術がさまざまな形で社会貢献につながっていることを実感できると思います。自分の仕事が社会の役に立っていることを再確認できれば、日々の研究へのモチベーションも上がってくるのではないでしょうか。
──研究開発以外のキャリアを考えるうえでもSDGsは関係してきますか?
最初に「ビジネスチャンスにもつながる」とお伝えしたように、SDGsへ貢献することが社会のニーズになってきています。
SDGsで企業に期待されているのは、サステナビリティ(持続可能性)に配慮した製造や調達、販売を実施してゆくこと。環境に配慮した製造方法の確立や、人権や環境に優しい材料を調達するための調査や判断基準の策定など、新しい発想から理系の技術をSDGsに活かしていくことが求められています。
これからどんな仕事をすればさらに社会で活躍できるのか、そのために自分のどんな面を伸ばしていけばいいのか、考えるときの指針になりますよ。
SDGsを理解すれば、自分の仕事が輝いて見える
もうひとつ、私がぜひみなさんにお伝えしたいのが「自分の仕事をSDGsに紐付けて考えることは、やりがいを再発見するきっかけにもなる」ということ。
日々取り組んでいることが、どんなふうに社会のためになっているのか見直せば、仕事の価値を再発見できるようになります。
私も理系出身で、大学院を出てから金融系シンクタンクで研究員として働いていたことがあるのですが、ハードワークがつらくて辞めてしまった経験があるんです。忙しい日々のなかで気持ちにも余裕がなくなって、「なんでこんな仕事をしているんだろう……」と、どんどん負のスパイラルにはまってしまっていました。
だけど、もう少しだけ外に目を向けたり、自分の仕事の意義を考えられていたら、もっと前向きに働くことができたのかなと今でも思うことがあります。だからこそ、SDGsと紐付けることで、自分の仕事がちょっと輝いて見えるようになったらいいなと思っています。
──自分の仕事をSDGsに紐付けて考えると、たとえばどんな発見があるのでしょうか?
以前開催したSDGsのセミナーの参加者さんのなかに、環境系の活動をされている方がいました。
その方は「水素社会をつくりたい」というので理由を聞いてみると、「水素はお水からできるので、エネルギーを巡る争いがなくなる」と話してくれました。
まさに、こういうことなんです。その参加者さんは、環境問題のみならず、平和貢献にもつながっていることに新たに気づくことができました。
また、「医療系の研究開発職なので、『医療・福祉』くらいにしか貢献できないと思っていましたが、それ以外にもいろいろと関係していることがわかり、まずは自分が取り組んでいる仕事をしっかりやることが貢献につながるとわかりました」という方もいました。
このように、SDGsと紐づけてとらえなおすことで、自分が日々取り組んでいることの意味が、ひとつランクアップするような感覚を味わえるとともに、自分の仕事の社会的な意味ややりがいを再発見することができます。
社会に出て忙しく過ごしていると、ついつい目の前のことをこなすのに必死になってしまうことがどうしてもありますよね。そんなとき、SDGsを紐付けて自分の仕事を見直してみれば、新しいやりがいを発見できるのですね!
目標や未来に目を向けるきっかけにもなって、仕事に取り組む姿勢も前向きに変化しそうです。
また、これから企業をみるひとつの視点としても、SDGsへの取り組み方は大事なポイントですね。SDGsにどの程度熱心に取り組んでいるかは、その企業の未来志向度を表すひとつの指標になりそうです。
(注記:本記事が「リケラボ」で最初に公開されたのは2018年2月22日です。SDGsは急速に浸透して、現在では各企業とも本業とSDGsをどんどん紐づけるようになってきています)
矢部純代さん
早稲田大学大学院理工学研究科修了。シンクタンク勤務後、外資系マーケティング企業にてフリーのモデレーター、ライター等を経て、2008年創業よりエンパブリックに関わる。2010年より講談社Rikejoプロジェクトの事務局として、女子中高生の理系進路選択・キャリア支援、理系女性の活躍推進、キャリア支援に取り組んでいる。科学技術振興機構や日本女性技術者フォーラムなどが主催するワークショップやイベントファシリテーターも務める。
研究職をはじめとする理系人の生き方・働き方のヒントとなる情報を発信しています。
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