エステー『消臭力 トイレ用 携帯タイプ』
「強力に、しっかり消臭できる」と絶大な信頼を誇る『消臭力』シリーズから2018年10月に誕生した新商品。外出先でこっそり消臭できる、携帯に便利なポーチインサイズのミストスプレータイプの消臭剤。コスメのようなデザインで音もしにくく持ち歩きやすい。オフィス、学校、旅行などのさまざまな場面で使用できる、“気くばり女子のトイレミスト”。
http://www.st-c.co.jp/products/detail/air_freshener_004311.html

今回はエステー株式会社にお邪魔し、この度新発売された“気くばり女子のトイレミスト”こと『消臭力 トイレ用 携帯タイプ』について聞いてきました。お話してくださったのは、商品開発グループで開発を担当された中野知子さん。

商品開発のシゴトの実際がよくわかる、貴重なお話をうかがうことができました!

“消臭剤っぽさ”を消すことにこだわった

──“気くばり女子のトイレミスト”の誕生のきっかけや背景を教えてください。

社内の女性デザイナーから「出先でも使いやすい消臭スプレーがあったらいいのに」という声が挙がったのが最初のきっかけでした。

トイレ用消臭スプレーといえばエアゾールタイプのものが主流で、噴射時に「シューッ!」と、大きな音がするイメージがあると思います。缶のサイズも大きめで、外出先ではなかなか使いにくかったことから、「女性にとっての使いやすさにこだわった商品を作ろう」ということで企画されました。

──今回の製品で、とりわけ特徴的なポイントはどんなところですか?

容器の形やデザインにまでこだわって、女性にとっての「持ち歩きやすさ」を追求した点です。化粧ポーチにも入れやすく、ちらりと見えたとしても恥ずかしくないよう、マスカラなどのコスメをイメージしたデザインにしています。容器の細さにもこだわっていて、一般的な細めのスプレー容器よりもさらに細いものを使用し消臭剤っぽくない見た目を追求しました。


清潔感のあるブルーを基調としたデザイン。キャップ部分はマットな質感になっていて、先端はお花の形になっている。本当にコスメのよう! ちなみに、1本で約240回スプレーできる

──香りや成分の面にも特徴はありますか?

トイレ用の消臭剤は、不快なニオイをすばやく消すために、ある程度の香りを必要とします。ですが、強い香りでいかにも「消臭剤を使いました」と思われることも気が引けるという女性が多いとのことだったので、ここでもできるだけ“消臭剤っぽさ”のない爽やかな香りになるよう気をつけました。

──消臭剤で有名なエステーさんが、“消臭剤っぽさ”を消すことにこだわったというのが面白いですね。

そうですね、なかでも消臭力シリーズは「強力に、しっかり消臭できる」ことが伝わるようなブランドを目指して誕生しました。大きくてどっしりとした形のものや、インパクトのあるCMが印象に残っている方も多いと思います。一方で最近は、デザイン性や、香りの質の高さが求められることも増えています。

そこで、エステーとしてもお部屋に溶け込むデザインのものや、アロマのように香りを楽しめるもの、今回のように携帯性に優れたものなど、幅広いニーズに合う商品をつくって、消臭芳香剤の可能性を広げていけたらと考えているんです。機能性の高さは大前提として、もっと香りを楽しめたり、お客様に好きになっていただける商品づくりを目指しています。

──今回のトイレミストは、店頭で気軽に手に取れるかわいらしいパッケージながら、「消臭力」のロゴが付いていて、きちんと効果がありそう! と感じます。

ありがとうございます。今回のパッケージに記載されている『消臭力』のロゴは、デザインに合わせて大きさや色などさまざまなパターンが検討されたんですよ。消臭剤っぽさが出過ぎないように、もう少し淡い色で統一したものなどがいいのでは、といった案もありました。

でも、実際に置いてみたら通常のロゴが馴染んだのと、消臭力ブランドの商品としてある程度存在感を持たせたかったのもあって、現在の形になっています。

──“消臭剤っぽさ”を消すうえで大変だったことはありますか?

容器を細くしたことによって面積が小さくなり、表示を入れる箇所を決めるのが難しかったです。また、見た目が「マウススプレーに似ている」という声があり、誤使用を防ぐために注意書きの内容にも気をつけています。ひと目見てわかるように、イラストでも表現しました。子ども向け商品につける注意書きにはルールがあるのですが、今回のような日用品には表示ルールが意外とないんです。いかにわかりやすい表示にするか、試行錯誤を重ねました。

「口に入れてはいけない」ことがひと目見てわかるようになっている

相性の良い香りに取り込んで嫌なニオイを消臭

──ところで消臭とは科学的にはどのような仕組みなのですか?

今回の“気くばり女子のトイレミスト”では、良い香りによって嫌なニオイを消臭する“感覚的消臭法”の中の、“ペアリング消臭”を活用しています。これは、悪臭を良い香りの一部として取り込んで、嫌なニオイを良い香りにする方法です。

じつは、「トイレのニオイのもととなる便臭も、薄めるとすごくいい匂いに感じる」ということが科学的にわかっています。相性の良い香りとうまく組み合わせることによって、気になるニオイを消臭できるのです。

香りのチェックをしているところ。科学的な測定によって数値もチェックするが、実際に人間の鼻でどう感じるのか、効果実感をとても大切にしているとのこと。今回は、最終的に5種類ほどの香りのなかから1つが選ばれた。社内で試作品を配ったり、モニターアンケートを実施したり、たくさんの人によって香りが確かめられた

ほかにも消臭力シリーズでは、酸性とアルカリ性の中和反応などを利用した“化学的消臭法”や、炭などの細かい穴に悪臭成分を取り込んで消臭する“物理的消臭法”、悪臭のもとになる雑菌の繁殖を防いで消臭する“生物的消臭法”が活用されていて、使う場所やシーン、対象となるニオイによって、消臭方法が変わってきます。

たとえば、冷蔵庫内で使う『脱臭炭』は食品の近くで使うものなので、化学的なものが含まれておらず、無臭のため食べ物に香りが移る心配がない“物理的消臭法”を活用。『消臭力 トイレ用 クエン酸プラス』という商品では、クエン酸を使った“化学的消臭法”と、ろ紙に配合した『ナノパウダー』による“物理的消臭法”を組み合わせることで消臭のパワーをアップさせています。

お部屋用の『消臭力』の多くも、良い香りのする“感覚的消臭法”と、『ナノパウダー』による“物理的消臭法”を組み合わせています。

化学的消臭法(左)と物理的消臭法

開発期間は1年。少人数でスピーディーに開発を実現

──今回の製品はどれくらいの期間で開発されたのですか? また、何人ほどの方が開発に携わったのでしょうか?

開発期間は約1年間で、10名前後が携わりました。成分の処方を決める研究開発者、パッケージデザイナー、プロダクトデザイナー、マーケター、材料の仕入れ担当者、製造担当者、コピーライター、そして商品開発者……といったように、それぞれの担当が集まってつくりあげています。

──もっと細かく役割を分担して多くの人が携わっているとイメージしていたので、意外と少なくて驚きました。

そうなんです。人数が少ないからこそ、顔の見える人たちと納得いくまで話ができるので、大変なことがありながらも日々楽しく開発できています。

──中野さんが担当されているのはどんなことなのですか?

私は、全体を見て調整をする進行役です。それぞれの担当者や上司と連絡や話し合いを重ねて、開発を進めていきます。

──開発の“司令塔”ともいえるわけですね。ひとつの商品ができあがるまでの工程を教えていただけますか?

工程といっても、さまざまなことを同時進行するケースが多いです。たとえば、コンセプトやスペック、大きさ、中身の成分、パッケージなど、製品の姿かたちを決めるところから、製造部門の人に相談しながら生産ラインを組んでもらったり、試作をしてもらったり。

工場で製造すると、ラボとは違う出来になってしまうことも珍しくないため、そのときは問題を修正しながら完成に近づけていきます。また、薬事法などの規制に基づきながら各部署に表示を確認したりするのも重要な工程のひとつです。

1回の噴射量にばらつきがないかチェックしているところ。ちなみに、ミストの広がり方や細かさも何パターンか試したうえで現在のものに決まったとのこと。ピンポイントすぎず、広がりすぎない絶妙なミストになるものを選んだのだとか

──中野さんは、すべての工程で関係各所とのやりとりを担っているということですよね。これだけたくさんのことを同時に考えながら、1年間という短い期間で製品をつくるのはとても大変なことだと思います。

そうですね、私もこの仕事に就くまでは、もっと長い時間をかけてひとつの商品ができあがるのだと思っていました。ただ、製品の開発は、かけた年数のぶんだけいい製品ができるかというと、そうとも限らないんです。ビジネスにはタイミングも重要なので、慌ただしいですが1年間で開発できてよかったと思っています。

スケジュールをきちんと管理して進行していくことは、開発担当者の重要な役割です。各担当者や上層部に何か判断を仰ぐ際にもスピーディーに決断してもらえるよう、できる限りこちらで考えて選択肢を絞り込んでおくことなどを心がけていました。

また、気持ちの面でちょっとした障害ができると、連絡がスムーズにいかなくなってしまうこともあるため、多少思うようにいかないことがあっても、必要以上に落ち込まないことも大切です。

まだ発売したばかりなので(取材日は2018年10月)、お客さまからの声が入ってくるのはこれからになりますが、関係各所では評判が良いと聞いています。「消臭剤っぽくないけれど、きちんと消臭してくれる」ということがお客さまにも伝わればうれしいですね。

「研究開発」と「商品開発」の違い

──中野さんはエステーに入社されてからずっと商品開発を担当されているのですか?

はい、そうです。新卒入社した食品会社では健康食品の商品開発をやっていたのですが、ホームケア品の商品開発をやりたいと考えてエステーに転職しました。

私は大学院では食品科学を研究していて、周囲は研究職志望の友人がほとんどでした。でも、私は身近な商品をつくる仕事がしたくて、商品開発をやりたいとずっと思っていたんです。

──「研究開発」と「商品開発」の違いを教えていただけますか?

エステーの場合ですが、今回の“気くばり女子のトイレミスト”でいうと、中身の成分を考えて処方を決めるのが「研究開発」の仕事。パッケージなど外側も含めて全体の形作りに携わるのが「商品開発」の仕事です。コスト面や新しさ、生産のしやすさなどさまざまなことに配慮しながら、総合的に一番良いものにできるよう仕様を決めていきます。

たとえば、今回のミストについて言うと、容器を細くすることで、内容量との兼ね合いがあったり、生産の過程に影響を与えたりする可能性もあったり……「ひとつを立てるとどれかひとつが立たない」ことが難しかったです。でも数ミリの違いが、“消臭剤っぽさ”が現れてしまうかどうかを左右するので、そこは妥協してはいけないポイントだと考え、「絶対にこの細さにしよう」とこだわりました。

それから、会議のための資料を作るなど、商品開発の仕事には、机に向かう仕事が意外と多いことも知っておいていただくといいかもしれません。資料作成にはコツがあって、情報を詰め込みすぎると伝わりにくくなります。頑張って出した実験データは全部見せたくなってしまいがちですが、特に経営層に伝えるには、必要最低限の重要な情報にフォーカスして伝えることが大切だと日々実感しています。特に若いうちは作り込みすぎる前に、上司に中間チェックしてもらうと、方向性が間違ってしまった時もすぐに軌道修正できるのでいいと思います。

──中野さんが「商品開発」の仕事をするうえで大切にされていることは何ですか?

相手のいいところを見つけるようにすることを心掛けています。

アイディアが素晴らしくても、生産やコスト面で難しかったりすると、賛成してもらえないこともあります。そんなとき、その人がどういう背景でその意見を言っているのかを考えたり、良い面を見ていくことでコミュニケーションがスムーズになるんです。どんな仕事にも当てはまるかもしれませんが、開発の仕事では特に大切なことだと考えています。

──最後に理系の学生や若手社会人の皆さんに向けてメッセージをお願いします。

研究テーマや担当する仕事は、必ずしも自分が望むものを選べるとは限りませんよね。自分の思い通りの仕事が与えられなかったとき、つい周りと比べて「あのテーマのほうがよかったのに」という気持ちになってしまうこともあるかと思います。

でも、なるべくそういうことは考えずに、目の前にあることをまずはやってみることが大切なのかなと思います。大変な仕事にあたった時も、周りと比べずひたすら頑張ってみることで、結果としてそれが良い経験になったと実感できることがあるはずですよ。

商品開発者として「日常の中の小さな幸せを届けたい」と控えめににっこりほほ笑む中野さん。

奥ゆかしい雰囲気の中に、開発に対する情熱やお客様のことを想う温かな気持ちが垣間見え、印象的でした。さまざまな意見が挙がってくるであろう開発チームを取りまとめ、妥協すべきところとしてはいけないところを見極め、みんなのコンセンサスを取りながらひとつの製品として形にしていく──。

そこには並々ならぬ胆力や繊細な気配りが必要なことでしょう。学生時代はサークル・バイトもばっちりやっていたそうで、とてもパワフルな方なのだと思いました。

これからも、素敵な商品をたくさん開発してください。楽しみにしています!

(本記事は「リケラボ」掲載分を編集し転載したものです。オリジナル記事はこちら

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