文部科学省が2018年3月に発表した新学習指導要領には小学校での「プログラミング教育」必修化などが盛り込まれ、巷では子供向けプログラミング教室の需要も高まっている。
2年後に始まる「プログラミング教育」はどんなものになるのか、親はどう心構えをしておくべきなのか。
子供向けプログラミングイベントのプロデュースなどを手掛ける太田志保氏に聞いた。
プログラミング教育は、プログラミング言語を覚えるための授業ではない
2020年から始まるプログラミング教育について説明すると最初に驚かれるのが「プログラミング教育は、プログラミング言語を覚えるための授業ではない」ということです。
文部科学省が発表した資料には次のように書かれています。
学習指導要領にある内容は「論理的思考力の育成」です。「プログラミング言語の習得」とは書かれていません。
次に驚かれるのは「プログラミングの教科ができるわけではない」ということ。プログラミング教育は、国語や算数や理科など、従来の教科のなかでおこなわれることになります。
従来の教科のなかでも論理的思考が必要になる学習シーンはあります。ただ、それは国語の読解だったり、算数の図形などの問題を解くことの影になって気づきにくいものです。プログラミング教育での学習は「論理的思考力育成」を目的にすることで、より答えを探すための過程に重点を置いたものになるはずです。
プログラミングは、何度もトライアンドエラーして、自分なりの正解を探すものです。プログラミングをしながら自分で物事を組み立て、多方面から考え、実証してみることにより培われる論理的思考力が、これから大人になる子供たちには必要です。
「プログラミング言語を用いない」プログラミング
現在の低学年向けのプログラミングツールの主流になっているのはプログラミング言語を用いないプログラミングです。
では、どうやってプログラミングをするのでしょうか?
その答えのひとつが「絵」や「ブロック」を用いたプログラミングツールです。
例をいくつか挙げましょう。ここでは筆者が実際にワークショップに用いたなかで、小学校低学年にオススメのものを並べてみます。
PETS(ペッツ) https://4ok.jp/pets/
木製の見た目を持つロボットです。
ブロックを穴に差し込むことでプログラミングし、「実行」ボタンにより考えたプログラミングを試すことができます。頭の中で考えたロボットの動きと、実際のロボットの動きの違いに気づきやすいように作られています。リトライ(やり直し)しやすいのも特長です。
添付のカリキュラムは徐々に難しくなっていて、中盤からLOOPという、プログラミングならではの繰り返し処理を行なうブロックもでてきます。ちなみに、LOOPブロックを使うと掛け算を簡単に説明できます。
Viscuit(ビスケット) https://www.viscuit.com/
4歳から使える無料のプログラミングツールです。
iPhone、Android、パソコンなど対応機種が多いのも導入しやすいポイントです。学校などの多人数での利用に効果を発揮します。
プログラミングの前に、まず絵を描き、その絵をどのように動かすかをプログラミングします。左右に並んだふたつの丸のなかに「前の位置」と「次の位置」として絵を置きます。置き方によって、絵は上に動いたり下に動いたり、速度が速くなったり遅くなったりします。簡単な操作ですが多様なアレンジが可能なツールです。
教科内で用いるなら、図工でしょうか。
Springin'(スプリンギン) http://www.springin.org/jp/
iPadの無料アプリです。
ゲームのなかの世界で、重力を使ったり、加速度センサーを使ったりしてゲームを作っていきます。最初はゲームに必要な物体(壁やボール等)を描きます。次に、物体の動きをプログラミングしていきます。一通り作ったら「実行モード」で動きを確認します。
レベルアップして進んでいくような本格的なシューティングゲームも作れます。動きのある絵本も作れます。こちらも教科としては図工になるでしょう。
Ozobot(オゾボット) https://www.ozobot.jp/
たこ焼きサイズの小さなロボット。
プログラミング方法が3種類も用意されているので、小学1年から6年まで幅広い使い方ができます。低学年には、描かれている線をなぞるようにロボットを動かす「ライントレースプログラミング」。マジックやシールを使って命令を伝えます。
中学年には、タブレット端末を用いた、プログラミング。専用アプリにはたくさんの例題が入っています。
高学年には、命令ブロックを使ったビジュアルプログラミング。プログラミングツールはインターネット上に公開されている(https://ozoblockly.com/editor?lang=ja)ので、パソコンやタブレット端末から利用できます。
micro:bit(マイクロビット) http://microbit.org/ja/guide/
イギリス発祥の小さなマイコンボードです。
あらかじめ、多種のセンサーが搭載されているので、プログラミングを交えた調べ学習にも使えます。
例えば、2人ペアでマイコンボード上にメッセージを送り合う「メッセージ交換」をしたあと、「通信の電波を調べよう」というテーマで身の回りのもの(食器、カバン、水筒、鍋など)のなかにボードを入れても通信できるかどうかを試していくという使い方ができます。教科でいうなら、理科か社会でしょうか。
これらは、プログラミング言語を覚えることなくプログラミングでき、論理的思考のトレーニングになります。
4年生以上になれば、英語にも慣れる頃ですし、パソコン授業も進んでいるので、プログラミング言語を用いてゲームを作ることも楽しんでできるようになるでしょう。
小1の壁対策のワークショップ
ここで、小1の授業時数を見てみましょう。
8教科で850時間。その3分の1以上を国語が占めています。国語と算数を合わせると半分以上になります。
我が子が小学1年だった5年前、「毎日座って本を読むのばかり」と泣き、登校を拒むことがありました。いわゆる「小1の壁」です。理由を聞くと「なんのために本を読むのかわからない。つまらない」とのこと。
母(筆者)は作戦を練りました。その作戦は、お友達を交えてのワークショップの開催です。作るのは、電池無しでも光る電磁誘導を用いたライトです。用意したのは、小1の子どもでも自分で読めるような「ひらがなの作り方ブック」と「材料」。子どもたちは作り方ブックを読みながら、電磁誘導ライトを次々と完成させました。
電磁誘導を学習するのは高校です。小1には大変難しいテーマです。ですが、「友達と一緒にライトを作る」という体験の楽しさが、難しさを超えました。もちろん子供は電池がないのにライトが点くことを不思議にも思います。それに対する筆者の説明は
「空気の中に電気の赤ちゃんがいて、このしかけで集められるんだ。このしかけの仕組みは高校で習うから楽しみにしててね」
と、なんともアバウトなものです。最後に
「文字を読めると本が読める、作り方が読める。もっと面白いものが作れるよ」
と、伝えてワークショップを終えました。
この経験をもとにして、筆者は小学校低学年の向けのワークショップを開催するようになりました(そのうちのふたつが『作って遊んで科学を学ぼう! 手作りロボット』という書籍になっています)。
「小1の壁」対策とプログラミング教育
プログラミング教育も、小1の壁の突破口になり得るのではないでしょうか? 前出の「プログラミング言語を使わない」プログラミングツールも、最初のハードルは低いのですが、進んでいくとだんだん難しくなります。
諦めずに何度も挑戦すること。全然思ってない動きになった可笑しさ。そして自分の思い描くようにできた時の喜び。それらのトライアンドエラーの繰り返しのなかで、論理的に整理していく。これが、プログラミング教育が育もうとしている力です。
多くの子どもたちはプログラミング授業を楽しみにすることでしょう。プログラミングのような、トライアンドエラーのサイクル(「考える、試す、結果が出る」)が短いものは単純に楽しいからです。
プログラミングには決まった正解はありません。自分が作りたいと思ったものを作れることが正解です。子どもが作り方に悩んだとき、聞く相手は親ではなくインターネットです。親はインターネットでの検索の仕方を教えてあげてください。
インターネットで得る情報は大抵大人向けに書かれています。国語の読解力が必要なことを子ども自身が体感できることでしょう。
「なんのために勉強するのか?」
「自分が作りたいと思ったものを作れるように勉強する」
実際のところ、プログラミング教育が始まったら、むしろ国語の学習がそれ以前よりも意欲的になるのではないかと、期待交じりに予想しています。