2014年も残すところ、あとわずか。今年も宇宙に関する重大ニュースがたくさんありました!
(Rikejoでもおなじみ「3D星座」の本田隆行さんに今年の宇宙・三大ニュースを聞いてみました)

 icon-asterisk 5月14日、宇宙飛行士の若田光一さんが、日本人初の国際宇宙ステーション(ISS)のコマンダー(船長)として、その任務を果たして帰還!
 
icon-asterisk 11月13日、欧州宇宙機関 (ESA) の彗星探査機「ロゼッタ」が人類初の彗星着陸に成功!
 
icon-asterisk 12月3日、小惑星探査機「はやぶさ2」の打ち上げが成功!

 
さらに、中国の月探査機「嫦娥(じょうが)5号」が月周回軌道から地球帰還に成功、インドの火星探査機「マーズ・オービター・ミッション」が新たに火星周回軌道に到達するなど、世界的にも宇宙開発が進んでいることを実感する1年だったと言えるかもしれません。
 
そして、皆さん!お正月休みには、ぜひ、ヤングマガジン「衛星ガール(サテライトガール)」 を!!
 
ここでは、衛星ガールを紹介する連動企画・第2弾として、芝浦工業大学の「芝浦衛星チーム」の皆さんをご紹介します。
 
icon-caret-right 初回記事はこちら:「2014年冬、宇宙がもっと近くなる★“衛星ガール”始動します!
 
 

 icon-rocket サークルで「衛星ガール」デビュー

人工衛星を学生の手で開発することを目指すサークル「芝浦衛星チーム」。衛星共同開発班、Cansatローバー班、Cansatフライバック班、ロケット班、バルーンサット班に分かれて活動しています。CanSat(缶サット)とは、超小型の模擬人工衛星のこと(Can=缶、Sat=Satellite、詳しくは、前回の記事をご参照ください)。
 
そのなかで、学部1年生の衛星ガールがこちらの3人!
 

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 icon-moon-o 高橋 玖実さん(CanSatローバー班、写真左)
「小さい頃から地元のプラネタリウムや、憧れの宇宙飛行士・毛利衛さんが館長の日本科学未来館に通っていました。興味が薄れた時期もありましたが、高校生でアメリカに留学し、NASAの見学や、太陽観測の研究員の方とお話することができたことで、宇宙に対する気持ちが再び芽生えました!」
 


 
 icon-moon-o 新井 幸さん(CanSatフライバック班、写真中央)
宇宙工学の道を意識しはじめたのは高校生の頃。芝浦工業大学には、人工衛星の開発を行う研究室はないため、サークルで活動しています。打ち上げれば、日本初となる大学サークルの独自衛星が夢です!」
 


 
 icon-moon-o 吉田 華乃さん(バルーンサット班、写真右)
「元々、宇宙に興味はあったのですが、サークル勧誘のチラシに写っていた地球の写真が衝撃的でした。(上の写真、吉田さんが手にするのが見事、彼女のハートを射止めたチラシ。)バルーンサットで地球の写真を撮りたい、自分が今いる地球を自分の力で見てみたいと思いました」
 
 

 icon-rocket CanSatに懸けた2014年

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(能代大会出場時の様子/提供:芝浦衛星チーム)

 
三者三様の思いを抱き、サークルに入った彼女たち。最初のチャレンジは、毎年8月に開催される「能代宇宙イベント」でした。芝浦衛星チームが出場したのは、ゴールすることを目的としてタイムを競うCanSatのカムバックコンペティション。高橋さんは、自動制御走行でゴールを目指すランバック部門に、新井さんは、飛行による到達を目指すフライバック部門に出場しました。
 
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(ローバーの機体/提供:芝浦衛星チーム)
 
 
まずは、ランバック部門(ローバー)について、高橋さんに伺います。
 
― 最大の課題は?
まずはレギュレーション(サイズ、重量の規定)におさまることですね。強度や精度を考えると、大きくなりますし、重くもなるので、せめぎ合いがあります。
 
― 制作段階で大変だったことは?
位置や速度を制御するサーボモーターも、重量の都合上、他の部品が搭載できなくなるため、精度のよいものを諦めざるをえませんでした。また、軽くて強度のある炭素繊維複合材(CFRP)を採用したのですが、CFRPの粉じんには毒性があり、肺を傷つける恐れがあるので、注意を払って加工をするのは大変でした。
 

*航空機業界で注目されている炭素繊維強化複合材料(CFRP)。アルミ合金よりさらに軽く、高強度の素材として注目されており、ボーイング787も構造重量の50%もCFRPだという。


 
― 大会に出場してみて、どうでしたか?

パラシュートの分離機構を担当しました。CanSatが空中で放出されると、パラシュートを開きますが、着地後、ローバーが動き出す前に、切り離さないといけないんです。でも、上手く分離できずに、パラシュートの紐が機体に絡まってしまいました。プラグラムは正常だったので、パラシュートの取り付け位置が悪かったのかもしれません。メンバーには申し訳なかったです・・・
 

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(図の提供:芝浦衛星チーム)

 
― どのようにパラシュートを切り離す計画だったのですか?
サーボモーターの周りにプラスチックのカバーがあり、そこにパラシュートがついています。加速度センサーで加速度0(着地して静止した)になると、もしくはタイマー設定で一定時間が経過すると、カバーが開き、カバーごとパラシュートが外れて、中のローバーだけが動き出すしくみです。
パラシュートにまつわる難関が多いローバー部門。大会の結果を悔やむ高橋さんに、「ちゃんと(パラシュートを)分離できたチームの方が少なかったですよ」と吉田さん。打ち上げからゴールに至るまで、次々と訪れる関門にドキドキ・ハラハラしながら、見届けていた様子が伝わってきました。
 
 
続いて、フライバック部門について、新井さんに伺います。
 
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(フライバックの機体/提供:芝浦衛星チーム)

 
― ランバック(ローバー)との違いは?
ローバーにおいては、石などが障害物となりますが、フライバックは地表の状態に左右されません。今年の能代宇宙イベントの時も、雨で地面がグシャグシャで、ランバック部門は棄権してもおかしくない状況でしたが、フライバックの場合は、打ち上げ時に雨がふっていなければ大きな影響を受けません。
 
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(芝浦衛星チームが作成したフライバック部門の説明ポスター)

 
一方で、空中での制御が必要になる分、難しさもあります。フライバックの方式には、パラグライダーのようなパラフォイル型と、飛行機のようなグライダー型があります。パラフォイル型が主流ですが、私たちはグライダー型で勝負しました。一歩間違えたら、落下し、地面に衝突するリスクもありますが、風に流されにくいことや、航空分野に関心が強いメンバーが多いことから、グライダー型にしました。
 
ここで、実際に使用した機体を手にした新井さん。すると、いきなり、バリバリバリッ!と翼の部分を折り曲げてしまいました!
 
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(ローバーの機体を手にする高橋さん(左)と、フライバックの機体を手にする新井さん)
 
 
― ど・・・どうしたんですか?翼が折れちゃいましたよ!
ロケットに搭載するときは、規定のキャリアに機体を入れるので、翼を折り曲げて収納できるようになっているんですよ。
 
― どうやって飛行させるのですか?
翼をテグスで巻いて折りたたみ、機体がキャリアから放出されたら、紐が切れて翼が広がるしくみです。超音波センサーで、機体とキャリアとの距離(キャリアから放出後されると、密接していた状態から距離が無限大に近づく)を判断し、サーボモーターに繋いだカッターで紐が切れる仕掛けです。
 
― なるほど、空中に放たれた瞬間に翼が広がるようになっているんですね。
翼はプラスチック素材だったので、巻き付けると形にクセがついてしまって。折りたたみ方を変えたり、プラスチック板の種類を変えたり。紙飛行機のような形にして翼の付け根にバネを仕込む方法など工夫しました。
実は、8月の能代宇宙イベントでは規定サイズ「146mm」に収まらず、涙をのんだそう・・・。146mmギリギリでは、入ったとしても、出てこられなくなる可能性も。こうした点も考慮し、9月にアメリカで開催されたARLISSではリベンジを果たせたそうです。
 
 

 icon-rocket CanSatから人工衛星、そして宇宙へ

― 今後はどのようなことやっていきたいですか?
高橋さん: これからは、衛星開発にも携わる予定ですが、ローバーは基礎的な要素が多いので、今後も大会出場を目指して頑張っていきたいです。
 
― 基礎的な要素とは?
高橋さん:ローバーは機械工学、フライバックは流体力学などがベースになりますが、いずれも人工衛星や、惑星探査に通じる技術的な要素があります。
 
新井さん:宇宙の探査先では、どんなことがあるのか分かりませんし、遠い地上局からコントロールを行うのも大変なので、自律制御が求められます。そういう技術もCanSatを通じて身につけていきたいです。
高橋さん:チームでやっていくので、他の人から見ても、いかに分かりやすく作るかも大事です。家電製品のように、ボタン1個で動くようにするとか、ネット上でプログラムを共有できるようにするとか、そうした工夫も必要になります。
 
― 探査機といえば「はやぶさ2」の打ち上げも迫っていますね(※ 取材は打ち上げ前に行いました)
吉田さん:はやぶさ2ももちろんですが、はやぶさ2と一緒にHII-Aロケットに相乗りする、東京大学の中須賀研究室のプロキオンという超小型探査機に注目しています。地球から遠く離れた深宇宙を自力で探査することがミッションです。大型の探査機でしか成し遂げられないと思われていたので、超小型探査機として挑むのは世界でも初です!
 
― こうした他大学の活動からも刺激を受けますか?
吉田さん:私は、高校生向けの宇宙フリーマガジン制作団体「TELSTAR」に所属しているので、
自校に限らず、宇宙を目指して頑張る大学生の姿を高校生に知ってもらい、多くの人に宇宙に興味を持ってもらいたいと思っています。

 
「はやぶさ2」の帰還予定は2020年。幼い頃に、筑波宇宙センターで「はやぶさ」を目にしていたという高橋さんが、今こうして衛星ガールとして輝いているように、6年後には、さらに多くの衛星ガールたちが活躍しているといいですね。
 
 
●取材協力:芝浦衛星チームの皆さん
 
今回、お話を伺った芝浦衛星チームの活動の様子は、webページ(https://sites.google.com/site/tasits3/)やTwitterで随時、紹介されています。
 

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衛星ガールの3人とサークルの代表・山本侃門さん(右側)と副代表の市岡大志さん(左側)

 
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取材に応じてくださった高橋さん、新井さん、吉田さん、そして、テクニカルな面や、取材全般のサポートをしてくださった山本さん、市岡さん、ありがとうございました。
 
 
ライター プロフィール

profile

堀川 晃菜(Horikawa Akina)
知りたい・伝えたい、が原動力の「つたえるリケジョ」
かつての専攻はバイオテクノロジー、研究パートナーは大腸菌。
農薬&種苗メーカー、科学館勤務を経て、ライター・編集者に。

 
 


【関連リンク】
 
宇宙フリーマガジン制作団体 「TELSTAR」
http://spacemgz-telstar.com/
はやぶさ2 特設サイト (JAXA)
http://fanfun.jaxa.jp/countdown/hayabusa2/
超小型深宇宙探査機「PROCYON(プロキオン)」の飛行状況について(JAXA)
http://www.jaxa.jp/press/2014/12/20141204_procyon_j.html
炭素繊維強化複合材料(CFRP)について
http://www.marubeni-sys.com/infinite-ideas/chousen/jaxa/index.html